ブラックホールの邪悪な双子的存在「グラヴァスター」とは一体何なのか?
ブラックホールの双子のような存在である「グラヴァスター」について、チャンネル登録者数2300万人超の人気科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが解説しています。
Black Hole's Evil Twin - Gravastars Explained - YouTube
純粋なエネルギーで満たされ、自然界で可能な限り奇妙な物質でできた殻を持つ、宇宙に存在するシャボン玉のような存在が「グラヴァスター」です。グラヴァスターの正体とは何なのか、どんな姿をしているのか、単なる理論上の仮説に過ぎないのか、それとも宇宙に対する理解を根本的に変えるような存在なのでしょうか。
超大質量星は、超新星として可能な限り劇的な方法で崩壊します。この過程を簡単に説明すると「1秒にも満たないうちに星のひもが極端な重力に押しつぶされて崩壊する」となります。星の殻が押し寄せ、崩壊するコアにぶつかって爆発するため、銀河全体よりも明るい光が生じるそうです。
崩壊する星の質量によって、「コアが圧縮されて超高密度の中性子星になる」あるいは「現実を壊して特異点として崩壊する」のいずれかが発生。「現実を壊して特異点として崩壊する」とは、ブラックホールが発生していることを意味します。
この2つのシナリオとは別に、グラヴァスターが発生するケースが存在するとKurzgesagtは指摘。
超新星爆発時、恒星のコアは無限に密度の高い点として崩壊するのではなく、油圧プレス機によって粉々に粉砕された岩石のように粉砕されます。原子や粒子は激しく衝突し、純粋なエネルギーに変わり、この時発生した泡は激しく膨張します。
そして、重力で崩壊しつつある周囲の星の質量と膨張するエネルギーの泡が衝突すると、その中でまだ観測されたことはないものの、物理的には可能だとわかっている新種の物質が生成されます。
これがグラヴァスターの誕生です。グラヴァスターは宇宙に存在するシャボン玉のようなもので、ブラックホールと同じようにどのような質量を持つことも可能。典型的なものの場合、サイズはロンドンの首都圏ほど、質量は砂10粒分ほどだそうです。
グラヴァスターの殻は暗く、宇宙で最も冷たいもので、絶対零度から10億分の1度だけ高い温度しか持っていません。グラヴァスターを深赤外光で見ると、宇宙マイクロ波背景放射でさえ明るく輝いていると感じるほどだそうです。
しかし、既知の物質でできているものがそれほど冷たいわけがありません。つまり、まだ名前のない、まったく新しい、ユニークで極端な物質からできているというわけ。
グラヴァスターの殻は信じられないほど薄く、原子と比べても非常に薄いです。しかも、ありえないほど極端な2つの力によって鍛え上げられているため、殻は極薄であるにもかかわらず、驚くほど堅いです。そのため、殻全体を1メートル伸ばすには、超新星1個分のエネルギーが必要となります。
グラヴァスターの内部は完璧に単純で、ある意味空っぽです。粒子も波もない完全な真空となっています。何もないにもかかわらず、宇宙で最も原始的で基本的なエネルギーで満たされています。
これがどのような意味を持つのかを説明するには回り道が必要です。すべての核心にあるのは「無」です。グラヴァスターの内部は、超凝縮された無のようなものであるため、科学者が測定し、計算したものを理解するには、単純化と比喩を使う必要があります。記事作成時点の物理学では、クォーク・電子・光子などの粒子は固体の物体ではなく、海の波のようなものだとされています。私たち人間の世界では、水がなければ波は存在しません。これはミクロの世界でも同様で、根底に遍在する宇宙流体のようなものがなければ、粒子の波は発生しません。つまり、グラヴァスターの中に存在する「無」とは、あらゆるものを構成する宇宙(真空)流体です。波や粒子が存在していなくても、この流体はそこに存在する「はず」です。
私たちが知っているあらゆる流体と同じように、宇宙流体にも固有のエネルギーがあるはずです。宇宙流体は宇宙のどこにでもあります。あなたがいる部屋でもそこら中を跳ね回りながら空気中の粒子の間の99.98%が真空になっています。そして、あなたの細胞を構成する何兆もの粒子の間にも真空があります。
しかし、グラヴァスターの中は違います。星が崩壊して凝縮する時、宇宙流体が圧縮され一種の超高密度の「無」が形成されます。先に述べたように、波がなくても、宇宙の真空にはエネルギーが存在します。しかし、グラヴァスター内部の真空は超高密度であるため、1立方cm辺り、通常の真空のほぼ10億倍あるいは1兆倍ものエネルギーを持っています。つまり、小さな空間に信じられないほどのエネルギーと質量が存在しており、これはまさにブラックホールそのものです。
グラヴァスター内部の強烈に圧縮された真空は、これ以上圧縮することができません。ブラックホールがそうであるように、物理学の論理を破綻させることなく圧縮できるものには絶対的な物理的限界にあります。グラヴァスターの殻は、それ自体があらゆる物質が可能な物理的限界のギリギリにあります。そのため、Kurzgesagtは「グラヴァスターは完全に黒い永遠の物体であり、境界線上の狂気のアモ(ハワイ語で「光のきらめき」の意)です」と表現しました。
とても冷たく、暗く、巨大であるため、外から見ると、グラヴァスターはブラックホールとまったく同じように見えます。見た目だけでなく、その挙動もよく似ており、どちらも周囲の空間を大きく湾曲させ、降着円盤に質量と光を閉じ込めたり、近づくにつれて時間を遅くしたりします。そのため、もしもグラヴァスターに落ちてしまえば、重力により引き裂かれ、粉々になり、表面にぶつかる前に死んでしまうでしょう。さらに、一旦殻に触れてしまえば、あなたを構成している原子は完全に分解され、内部の真空エネルギーに変換され、グラヴァスターを大きくするだけです。
ブラックホールは重力方程式の抽象的な解として100年以上前に提案されたものです。50年以上もの間、数学的には妥当であるものの、あまりにばかばかしくて実在しないものと考えられてきました。そのため、実際に存在すると信じる者はほとんどいませんでした。しかし、科学者たちは紙の上で研究を続け、ついに理論上はブラックホールが存在すると認められるようになっています。
グラヴァスターも比較的新しいアイデアですが、特異点なしで物理的に証明することができる概念です。グラヴァスターの信じられないほど冷たく堅い殻が存在すると仮定するなら、記事作成時点では発見されていない新しい物質が存在する必要があります。これは「ブラックホールが存在することは理論上成り立つ」という点において、ブラックホールと何ら変わりありません。
ただし、ブラックホールには事象の地平面がありますが、グラヴァスターには物質でできた物理的な殻があります。そのため、2つの物体が衝突したときの振る舞いは大きく異なるはずです。
2つのブラックホールが衝突すると、大量の重力波が発生します。
対して、2つのグラヴァスターが衝突すると、微妙なエコーが残るのみです。
衝突により発生する波に違いはありますが、実際にそれらを区別することは非常に難しく、「厚いコンクリートの壁を通して2つの楽器を見分けようとするようなもの」だそうです。
この違いを検知できるようになるべく、人類は信じられないほどの進歩を遂げてきました。しかし、記事作成時点ではグラヴァスターとブラックホールの違いを測定するには至っていません
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