ブラックホールが「宇宙最恐」な3つの理由
非常に強い重力によって時空をゆがめるというブラックホールは「光すらも脱出不可能」であることで知られる、宇宙空間における破壊の象徴ともいえる存在です。そんなブラックホールが「宇宙最恐」と言い切れる3つの理由について、アメリカ天文学会の副会長を務めた経歴を持つアリゾナ大学天文学部のクリス・インピー名誉教授が解説しています。
The scariest things in the universe are black holes – and here are 3 reasons
https://theconversation.com/the-scariest-things-in-the-universe-are-black-holes-and-here-are-3-reasons-148615
2020年度のノーベル物理学賞はアインシュタインの一般相対性理論によってブラックホールの形成を証明したロジャー・ペンローズ氏と、太陽のおよそ400万倍の質量の超巨大ブラックホールの存在を明らかにしたラインハルト・ゲンツェル氏とアンドレア・ゲズ氏に贈られており、ブラックホールに関する研究は注目度が高いものだといえます。一般的に「光すらも飲み込んでしまう」と知られているブラックホールについて、30年以上にわたって研究を続けてきたインピー名誉教授は、「ブラックホールは3つの理由で怖いといえます」と述べ、その理由を解説しました。
◆1:ブラックホールに吸い込まれるとバラバラになって死ぬ
ブラックホールは光さえも脱出することができないあらゆる物体の墓場です。インピー名誉教授によると、もしブラックホールに吸い込まれたならば、強烈な重力によって引き裂かれて骨・筋肉・副鼻腔どころか、肉体の分子までもがバラバラになるという「スパゲティ化」という現象が生じると考えられているとのこと。なお、スパゲティ化は世界的に著名な物理学者だったスティーヴン・ホーキング博士が著作「ホーキング、宇宙を語る」の中で紹介したことで一般的な認知度が高まった概念で、2020年10月には実際にブラックホールが星をスパゲティ化して飲み込む瞬間が観測されています。
ブラックホールが星を「スパゲッティ化」させて飲み込む瞬間がとらえられる - GIGAZINE
◆2:高エネルギーの放射線を出す
過去30年間にわたるハッブル宇宙望遠鏡の観測の結果、ほとんど全ての銀河の中心にはブラックホールが存在していることが示されています。近年の研究では、銀河で最も明るい存在とされるクエーサーは、銀河の中心に位置するブラックホールがエンジンとなって光を放っていると考えられているそうです。
インピー名誉教授によると、ブラックホールが重力によって近くの星やガスを引き寄せた際に大量の放射線を出すことがクエーサーの明るさの原因とのこと。この明るさについて、インピー名誉教授は「市内の家・車・通りに存在する光源から放たれる光を銀河に存在する星から放たれる光だと考えた場合、クエーサーから放たれる光は街全体から放たれる光を数百倍、数千倍した明るさに相当します」とコメント。この光の原因となる放射線については、「近づきすぎると重力で引き寄せられてバラバラにされる危険の他にも、高エネルギーの放射線を浴びて死ぬという可能性も存在します」と語っています。
なお、銀河の中心に位置するブラックホールは銀河の形成と進化に重要な意味を持っていると考えられており、2019年には高エネルギーのガスを噴射して星を形成する手助けをしたと考えられるブラックホールの存在が確認されています。
高エネルギーのガスを噴射して複数の銀河にわたって星を育てるブラックホールが発見される - GIGAZINE
◆3:吸い込まれてもバラバラになって死なずに永遠に閉じ込められる可能性
これまでに発見された中で最大の質量を持つブラックホールは巨大銀河「Holm 15A」の中心に位置しており、太陽の400億倍の質量を持つ上、外縁部は光の半分の速度で動いていると推定されています。インピー名誉教授によると、このような大質量のブラックホールは通常のブラックホールに比べて重力は強い一方、引っ張る力は弱いため、吸い込まれた場合には「生き残ってしまう」可能性があるとのこと。生き残ってしまった場合には、重力によって自分自身が脱出することもできなければ音波や電波で助けることもできない状態に陥るそうです。
インピー名誉教授はホーキング博士が唱えたブラックホールは素粒子を放出することで最終的に消滅するという理論である「ホーキング放射」を引用して「最も巨大なブラックホールが消滅するまでには、最低でも10100年かかります」と述べ、宇宙に存在する全ての星々が死んだ後もブラックホールは残り続けるだろうと語りました。
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