サイエンス

2つのブラックホールが衝突合体して「中間質量ブラックホール」を形成した際に発生した観測史上最大の重力波を検出


太陽の85倍の質量を持つブラックホールと、66倍の質量を持つブラックホールが衝突合体した際に発生したと考えられる過去最大の重力波が検出されました。これまでに観測されてきたブラックホールは、そのほとんどが太陽の質量の数十倍程度である恒星質量ブラックホールもしくは、太陽の質量の100万倍以上の超大質量ブラックホールに分類することができましたが、今回観測された重力波は、「中間質量ブラックホール」が形成される際に発生したものである可能が指摘されています。

GW190521
https://www.ligo.org/detections/GW190521.php

A 'bang' in LIGO and Virgo detectors signals most massive gravitational-wave source yet - ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/09/200902082341.htm

2019年5月21日、「GW190521」と名付けられた信号を、アメリカ・ルイジアナ州にあるレーザー干渉計重力波観測所であるLIGOで検出することに成功しました。検出した信号は4つの短い小刻みな信号で、持続時間は10分の1秒未満と非常に短いものだったそうです。

最先端の計算ツールおよびモデリングツールに基づいた分析の結果、GW190521は約5ギガパーセク(約163億光年)離れた場所で発生した重力波であることが判明しました。これは「これまで検出された重力波のうち、最も遠くで発生したもの」となるそうです。また、この重力波はブラックホール同士が衝突して合体した際に発生したものである可能性が高いと研究者たちは考えています。


これまでに検出されてきたほぼすべての重力波信号は、2つのブラックホールまたは2つの中性子星が衝突した合体した際に発生するものでした。

新しく検出された重力波も、約85太陽質量のブラックホールおよび、約66太陽質量のブラックホールが衝突して合体した際に発生したものと分析されています。なお、2つのブラックホールが合体した結果、142太陽質量の中間質量ブラックホールが誕生したと考えられています。


また、研究チームは検出した2つのブラックホールの自転を測定した結果、ブラックホールが互いに接近しながら周回し、軌道軸とずれた角度で自転している可能性があることを発見しました。ブラックホールの回転軸がずれた理由は、2つのブラックホールがお互いに向かって渦を巻く際に歳差運動を引き起こした可能性があるためだと指摘されています。

太陽の質量の142倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが誕生した結果、8太陽質量に相当する莫大なエネルギーが重力波という形で宇宙全体に拡散されたと研究チームは主張しています。


研究チームの一員であり、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究者でもあるネルソン・クリステンセン氏は、「今回検出された重力波は非常に強烈なもので、LIGOやVirgoが検出した中で最も大きな信号です」と語りました。

以下は2つのブラックホールが衝突合体して中間質量ブラックホールが誕生する瞬間までを数値シミュレーションし、視覚化した映像です。

Numerical simulation of a heavy black-hole merger (GW190521) - YouTube


最終的に形成された中間質量ブラックホールを生み出した2つのブラックホールも、そのサイズに特徴があります。

恒星進化における物理学では、恒星の核の中にある光子やガスによる外向きの圧力が、内側に押し寄せる重力に対抗して恒星を支え、太陽のような安定した状態を保っていると考えられています。大質量星の核の場合、鉄のような重い核が融合すると、外層を支えるのに十分な圧力を出せなくなります。このような「外向きの圧力が重力を下回る状態」になると、星は自重で崩壊し、超新星爆発と呼ばれる爆発を起こし、ブラックホールを形成します。このブラックホールの質量は元の星の半分以下となります。

そのため、例えば130太陽質量の星が超新星爆発した場合、後に残るブラックホールは最大でも65太陽質量ということになります。しかし、130~250太陽質量の星の場合、超新星爆発よりも大きなエネルギーを放出する対不安定型超新星という現象が起こるため、120太陽質量以上のブラックホールが形成されてしまうそうです。つまり、対不安定型超新星という現象が存在する限り、65~125太陽質量のブラックホールが形成されることはないと考えられてきたわけです。

しかし、今回の発見で中間質量ブラックホールを形成した2つのブラックホールはそれぞれ66太陽質量と85太陽質量という「形成されないはずの質量を持ったブラックホール」であったため、「なぜこのような質量のブラックホールが形成されたのかを、多くの天体物理学者たちが理解しようと奔走することとなるでしょう」と、研究に携わったクリステンセン氏は語っています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ブラックホールに吸い込まれると人間はどうなってしまうのか? - GIGAZINE

ブラックホールがわずか2時間で75倍も明るく輝き天文学者も「前代未聞」と驚嘆 - GIGAZINE

ブラックホールから取り出した膨大なエネルギーを生活に利用したり爆弾にしたりすることができる - GIGAZINE

太陽系に最も近いブラックホールが地球からわずか1000光年の場所に発見される - GIGAZINE

半世紀前に提唱された「ブラックホール発電」につながる理論が実証される - GIGAZINE

in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.