人類がブラックホールの存在を知る8つの方法
ブラックホールは、光さえ抜け出せないほど強力な重力を持つ天体なので、可視光だけでなくX線や赤外線などあらゆる波長の電磁波を使っても、その存在を直接観測することはできません。そんなブラックホールの存在を知るために科学者たちが編み出してきた8つの方法を、科学系ニュースサイトのLive Scienceがまとめました。
8 ways we know that black holes really do exist | Live Science
https://www.livescience.com/how-we-know-black-holes-exist.html
◆1:アルバート・アインシュタインの「確固たる予言」
「ブラックホール」という言葉が使われ始めたのは1960年代のことですが、1916年にはドイツの天体物理学者であるカール・シュヴァルツシルトによって、ブラックホールに相当する天体が宇宙に形成されうることが予測されていました。シュヴァルツシルトは、アインシュタインが1915年から1916年にかけて発表した一般相対性理論を基に「一般相対性理論が正しいならばブラックホールが存在する」と予測していました。
その後、1965年にイギリスの数理物理学者であるロジャー・ペンローズ氏とスティーヴン・ホーキング博士が、「ブラックホールには密度と重力が無限大の特異点が形成される」ということを突き止め、これによりペンローズ氏は2020年ノーベル物理学賞を受賞しました。この時の受賞理由は「ブラックホールが形成されることは一般相対性理論の『確固たる予言』であることの発見」でした。
◆2:ガンマ線バースト
ブラックホールを直接観測することはできませんが、ブラックホールが宇宙に及ぼす影響を観察することで、その存在を推知することはできます。天文学の分野で知られている中で「最も光度の高い物理現象」と呼ばれるガンマ線バーストもその1つです。
1930年代、燃料を使い果たした星がどうなるのかを調べていたインドの天体物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールは、「一定以上の質量のある恒星は自らの重力でつぶれて崩壊しブラックホールになる」と提唱しました。この際、燃え尽きた星の核はたった数秒間というすさまじい速度で崩壊し、これにより発生した膨大なエネルギーはガンマ線バーストとして宇宙に放出されます。このガンマ線バーストのエネルギーは、普通の星が誕生してから燃え尽きるまでに放出する全エネルギーに相当すると言われており、その輝きを捉えることでブラックホールの存在を知ることが可能です。
by NASA Goddard Space Flight Center
◆3:重力波
ブラックホールは単体で存在するだけでなく、複数のブラックホールがお互いの周りを回っていることもあります。このブラックホール連星では、非常に強力な重力の相互作用によって空間に波紋が広がる重力波が発生しうることが、アインシュタインの一般相対性理論によって予言されていました。そして2016年に、アメリカのレーザー干渉計重力波観測所「LIGO」が2つのブラックホールが合体した際の重力波の観測に成功したことで、アインシュタインが予言した重力波が証明されました。
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◆4:奇妙な動きをする星
星が寿命を迎えるときに発生するガンマ線バーストや、ブラックホール同士の衝突は一時的なイベントなので、いつでも観測できるわけではありません。しかし、ブラックホールから直接発生した天文現象が観測できなくても、ブラックホールの重力の影響を受けた他の天体の動きを観測することで、間接的にその存在を特定することができます。
2020年にHR 6819という連星を観測していたヨーロッパ南天天文台の天文学者らは、観測が可能な2つの恒星による連星が奇妙な動きをしていることに気がつきました。そして、2つの星がそのような動きをするには、少なくとも太陽の4倍の質量の天体が必要なことが計算により示されたことで、天文学者らは「この連星は実はブラックホールを含む3連星に違いない」と結論づけました。なお、HR 6819のブラックホールは既知のものとしては最も地球の近くにあるブラックホールで、連星全体が放つ光は肉眼でも見ることができるそうです。
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by L. Calçada/ESO
◆5:X線
前述のHR 6819ではブラックホールと2つの恒星はほとんど接触がないと考えられていますが、ブラックホールともう一方の天体の距離が十分に近い場合、星を構成する物質がブラックホールに剥ぎ取られていきます。
この時、星を構成していた物質は一直線にブラックホールに飲み込まれるのではなく、ブラックホールの周りを高速で回転し降着円盤を形成します。降着円盤は非常に強力なX線を発するので、そのX線を観測することでブラックホールの場所が特定できます。人類が初めて見つけたブラックホールとされるはくちょう座X-1は、この方法で発見されたものです。
◆6:超大質量ブラックホール
ブラックホールには、ガンマ線バーストが発生するような星の崩壊により誕生するもののほか、銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールもあります。ほとんどの銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在するといわれており、中でも活動銀河と呼ばれる特殊な銀河の銀河核からは電波・赤外線・紫外線・X線・ガンマ線など、あらゆる種類の電磁波が盛んに放出されています。
地球が位置する天の川銀河の中心部にあるいて座Aという領域にも、太陽の約400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールがあることが分かっています。
◆7:スパゲッティ化
ブラックホールの存在を示すもう1つの現象が、スパゲッティ化です。スパゲッティ化とは、ブラックホールのそばの天体があまりにも極端な重力によって粉砕され、まるでスパゲッティのように細長く引き延ばされてしまうというもの。2020年には、実際にブラックホールが星をスパゲッティ化させて飲み込む瞬間が観測されています。
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◆8:ブラックホールの影を観測する
ブラックホールの存在を知る究極の方法が、ブラックホールの輪郭を見るというもの。ブラックホールそのものは何も発しないので観測することができませんが、ブラックホールを取り巻く降着円盤を非常に高い精度で観測することで、ブラックホールの影響で降着円盤にできる影、つまりブラックホールシャドウを見ることができます。
2019年には、地球各地にある電波望遠鏡で同じ場所を観測し、あたかも1つの巨大な望遠鏡のようにしてブラックホールを捉える「イベントホライズンテレスコープ」というプロジェクトにより、おとめ座銀河団・M87の超大質量ブラックホールの降着円盤とブラックホールのシルエットが初めて撮像されました。
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