9億円以上で落札された「壁にバナナをガムテープで貼り付けただけ」のアートはなぜ芸術的に価値があるのか?
文字通り「壁にバナナをガムテープで貼り付けただけ」の作品が624万(約9億4000万円)ドルで落札されました。この作品の一体何がすごいのかについて、芸術の専門家が芸術的側面について解説しています。
A banana duct-taped to a wall has sold for £4.9 million – part of the evolving relationship between art and finance
https://theconversation.com/a-banana-duct-taped-to-a-wall-has-sold-for-4-9-million-part-of-the-evolving-relationship-between-art-and-finance-244573
Maurizio Cattelan’s viral banana artwork has sold again — this time for $6.24 million | CNN
https://edition.cnn.com/style/duct-taped-banana-maurizio-cattelan-auction-hnk-intl/index.html
落札されたのは、マウリツィオ・カッテランという芸術家が制作した「Comedian」という作品です。実はComedianが出品されたのは二度目のこと。前回は2019年に3つ公開され、2点は12万ドル(約1800万円)で、もう1点はさらに高額(金額非公開)で落札されていました。作品自体はマイアミの食料品店で購入されたバナナを貼り付けただけのものですが、専門家いわく「あくまでも概念的な作品」であり、バナナを別のものに置き換えても成立するといいます。
2019年に展示された際は、ソウル国立大学の美術学生がバナナを剥ぎ取って食べてしまい、食後に皮を張り付けるという事件が発生していました。学生は動機について「おなかがすいていたので」と語り、後に作品を食べる行為そのものが芸術だと擁護しました。展示していた美術館はバナナを置き換えることで対処し、事態を知らされたカッテラン氏は「何の反応も示さなかった」とのことです。
ノッティンガム・トレント大学芸術デザイン学部講師のベネディクト・カーペンター・ファン・バルトルト氏は、この作品の価値について「バナナとガムテープという組み合わせにあるのではなく、むしろ付属の書類にある」と指摘します。
Comedianの落札者には、本物であることを証明する書類と、作品を設置するための説明書が手渡されていました。この書類には「作品の物理的表現を構成する腐りやすい部品」、つまりバナナとガムテープを交換するための詳細な手順が記載されているとのことですが、バルトルトは「これはつまり、説明書通りに貼り付けることでどんなバナナでもアート作品へと昇華することを意味する」と解釈しています。
バルトルト氏は「このアプローチは美術品の所有権や価値に関する従来の概念に挑戦するものです。物理的な形ではなく、それらが体現する概念やアイデアに焦点を当てているのです。その価値は、真正性の証明、アーティストの表現力、そしてそれが生み出す議論にあります」と語りました。
by Milliped
バルトルト氏はComedianと仮想通貨のつながりも指摘しています。仮想通貨も、既存の貨幣制度に対する挑戦であり、所有権や真正性といった伝統的な概念を破壊するものだとの見方です。また、作品そのものの所有権ではなくデジタルコンテンツとしての価値をやりとりするNFTとの関連性もあります。
今回Comedianを購入したのは仮想通貨アドバイザーのジャスティン・サン氏で、サン氏は購入の意図について以下のようにつづっています。
「ジャスティン・サンです。この度、マウリツィオ・カッテラン氏の代表作『Comedian』を約620万ドルで購入することに成功しました。これは単なるアート作品ではなく、アート、ミーム、仮想通貨コミュニティの世界をつなぐ文化現象を象徴しています。この作品は将来、より多くの考えや議論を喚起し、歴史の一部になると信じています。バナナの所有者であることを誇りに思い、世界中のアート愛好家にさらなるインスピレーションとインパクトを与えることを楽しみにしています。さらに近日中に、このユニークな芸術体験の一環として、私自身がバナナを食べ、芸術史と大衆文化の両方におけるバナナの地位をたたえます。ご期待ください!」
I’m thrilled to announce that I’ve bought the banana???? !!! @SpaceX @Sothebys I am Justin Sun, and I’m excited to share that I have successfully acquired Maurizio Cattelan’s iconic work, Comedian for $6.2 million. This is not just an artwork; it represents a cultural phenomenon… pic.twitter.com/lAj1RE6y0C
— H.E. Justin Sun ???? (@justinsuntron) November 21, 2024
バルトルト氏は「Comedianは、現代の文化や金融の複雑な状況を反映させながら、価値を所有することについての認識や、芸術そのものの本質に挑戦している作品です。この作品は、アートの世界で注目される工芸品となっただけでなく、現代社会においてアートと資本主義を交差させた挑発的な作品にもなっていると言えます」と述べました。
・関連記事
自滅を試みた1億円超えの絵画のいきさつが完全版のディレクターズカットで公開中 - GIGAZINE
900万円超の現金を美術館から受け取ったアーティストが「お金を持ち逃げした」というタイトルで真っ白なキャンバスを提出 - GIGAZINE
美術館のスタッフがこっそり自分の絵を展示する「逆絵画泥棒」が発生、職員はクビになり最長2年の懲役刑に直面 - GIGAZINE
約1億6600万円でAI搭載のヒューマノイドロボット「Ai-Da」が描いたアラン・チューリングの肖像画が落札される - GIGAZINE
Twitterでつぶやかれた最初のツイートが約3億円で落札、なお出品者は全額慈善団体に寄付 - GIGAZINE
1枚のNFTアートが史上最高額の75億円で落札される - GIGAZINE
・関連コンテンツ