コンテンツの価格は海賊版のアクセス数に影響を与えるのか?
海賊版コンテンツは違法であると知りながら使ってしまう理由として、正規のコンテンツが高価過ぎるように感じられるということがしばしば挙げられます。実際にコンテンツの価格が海賊版の利用率に影響しているかどうか、複数の大学による共同研究チームが調査結果を報告しています。
Price, Piracy, and Search: Which Pirates Respond to Changes in the Legal Price? by Koushyar Rajavi, Brett Danaher, Jesse Newby :: SSRN
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4849529
Cheaper Prices Reduce Indirect Visits to Pirate Sites, Research Finds * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/cheaper-prices-reduce-indirect-visits-to-pirate-sites-research-finds-240609/
インターネット最大の海賊版電子書籍データベースの1つであるZ-Libraryは、運営者の逮捕やサイトの閉鎖などを繰り返し、存続が危ぶまれながらも仕組みを変えながら多くのユーザーを集めています。ユーザーの多くを占めるのが学生と教師で、教科書の価格が高騰していることから頼りにしているユーザーも多く、閉鎖された際には「現代版アレクサンドリア図書館の焼失」と嘆きの声も上がりました。また、学費は無料な一方で教科書は高価なデンマークでは、約半数の学生が海賊版を入手しているというデータもあります。
教科書が高すぎるせいで海賊版を入手する学生が増加、約半数は海賊版を使用しているというデンマークの調査結果も - GIGAZINE
このように、海賊版を利用する理由として「コンテンツの価格が高すぎる」ことはしばしば挙げられますが、一方で海賊版対策として価格を下げることは実効性が確かでないこともあり、実施することが難しいものです。また、実験を行うためには海賊版サイトである程度人気のある書籍の価格を権利者に変更してもらう必要があるため、実行が難しいものでした。過去にも同様に「海賊版利用者はコンテンツの価格が適切だと感じるなら正規に購入するか」を調査した研究はありましたが、多くの場合はアンケートなどの聞き取り形式で実施されていました。
海賊版の利用者は「方法があればお金を払って合法的にコンテンツを得る」という調査結果 - GIGAZINE
しかし、2018年に欧州連合(EU)は電子書籍の税を引き下げる法改正を実施し、これを採用したアイルランドなどの一部の国では、電子書籍の価格が最大14%下がるという出来事がありました。そこで、ジョージア大学ビジネスカレッジのクシャール・ラジャヴィ氏、チャップマン大学経営経済学部のブレット・ダナハー氏、カーネギーメロン大学情報システムおよび公共政策学部のジェシー・ニュービー氏は共同で、この自然な価格変化を利用して価格と海賊版トラフィックの関連を調べています。
研究者らはまず、著作権関連の追跡会社であるMUSOの海賊版サイト訪問データを参照しました。結果として、電子書籍の価格が14%下がった時期の「直接的トラフィック」には、それ以前と比較して大きな変化はなかったとのこと。ここで言う直接的トラフィックとは、海賊版サイトにURLを直接入力してアクセスするか、ブックマークからアクセスしている「海賊版に慣れているユーザー」を指すため、値下げが影響していないと研究者は推測しています。
一方で、検索エンジンから海賊版サイトへの流入、または外部リンクなど他の方法で海賊版サイトに誘導されるような「間接的トラフィック」の場合、値下げの影響を受けることが判明しました。研究者によると、アイルランドでは税制の変化で電子書籍の価格が14%減少した際に、海賊版サイトへのアクセス数が少なくとも27%減少していたとのこと。この効果は価格が減少した直後には小さいものの、時間の経過とともに大きくなっており、「ユーザーが価格の低下に気付くにつれて、海賊版サイトへのアクセスをやめていると考えられます」と研究者らは述べています。以下のグラフは、2018年の電子書籍価格改定からの時間経過とトラフィックの変化を示したもので、左が直接的トラフィック、右が間接的トラフィックです。
結果として、電子書籍価格の低下は直接的トラフィック、すなわち海賊版サイトのヘビーユーザーにはほとんど影響がありませんが、ライトユーザーである間接的トラフィックは減少させる効果があるとわかりました。研究者らはこの結果について、「海賊版に常時アクセスするユーザーは、法定価格にほとんど関心がないか、もしくは海賊版サイトでのみコンテンツにアクセスするために価格の低下に気付いていない可能性が高いです。一方で、海賊版にアクセスしようと検索エンジンを用いるユーザーは、検索を通じて価格の低下に気付きやすく、『価格が下がった、もしくは価格が適切なら正規の書籍を購入しよう』と思いやすい環境にあります」と示唆しています。
また、研究結果の意義について研究者らは「私たちの研究結果は、価格を利用して著作権侵害を軽減できる可能性を示しています。しかし同時に、経験豊富な著作権侵害者を正規の購入者に変換するために企業が努力しようとした際に、確実に直面する課題も浮き彫りにしています」と語りました。
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