「オンライン海賊版はコンテンツ売上にネガティブな影響を与えない」という報告書が存在するが欧州委員会は発表せず放置
by Adam Carter
欧州委員会は2014年にドイツのコンサルティング企業に海賊版の影響について調査するよう依頼し、2015年5月には「オンライン上の著作権侵害がコンテンツの売上を変えるということを支持する証拠はない」という報告書が出されたものの、欧州委員会はこの結果を「発表しない」という選択をしていたことが、海賊党欧州議会議員であり域内市場・消費者保護委員会のメンバーであるジュリア・レダ議員によって明らかにされました。
Estimating displacement rates of copyrighted content in the EU
(PDFファイル)https://cdn.netzpolitik.org/wp-upload/2017/09/displacement_study.pdf
Julia Reda – What the Commission found out about copyright infringement but ‘forgot’ to tell us
https://juliareda.eu/2017/09/secret-copyright-infringement-study/
EU paid for a report that concluded piracy isn’t harmful — and tried to hide the findings
https://thenextweb.com/eu/2017/09/21/eu-paid-report-concluded-piracy-isnt-harmful-tried-hide-findings/#.tnw_MtM7yxfC
Estimating displacement rates of copyrighted content in the EU - a Freedom of Information request to Secretariat General of the European Commission - AsktheEU.org
https://www.asktheeu.org/en/request/estimating_displacement_rates_of?post_redirect=1
What the @EU_Commission found out about #copyright infringement but ‘forgot’ to tell us https://t.co/Sxshdxy3KZ pic.twitter.com/Vk4Q74k1Hv
— Julia Reda (@Senficon) 2017年9月20日
ドイツのコンサルティング企業・Ecorysによって提出された「Estimating displacement rates of copyrighted content in the EU(EU内の著作権コンテンツ変位率の概算)」は300ページ以上に上る報告書ですが、その内容には「調査結果は、オンライン上の著作権侵害によってコンテンツの売上が変化するという統計学的な証拠をサポートするものではありません。これは、海賊版に全く影響力がないということではなく、統計的な分析では『影響力がある』ということが確実性を持って証明されないということを意味します。ただし、最新のトップ映画については例外であり、40%の変位率が示されました。これは、最新の人気映画10作のうち4作は合法的な方法ではなく違法な方法で見られているということを意味します」と書かれています。
しかし、2015年に報告書を受け取った欧州委員会はこのレポートの内容を発表せず、レダ議員がレポートを手に入れるまで、日の目を見ることがなかったとのこと。欧州委員会は調査のためEcorysに36万ユーロ(約4800万円)を支払っており、レダ議員は「レポートの結論はユニークなものではなく、過去の研究と一貫した内容だが、『なぜ欧州委員会が大金を払っておきながら、研究を約2年間にわたって公開しないという選択をしたのか』という点には疑問が残る」としています。
海賊版の取り締まりは「海賊版の存在が著作権で保護されているコンテンツにネガティブな影響を与える」という考えを根幹として行われていますが、過去には「海賊版映画サイトの閉鎖後に映画の興行収入が減少する」「著作権の存在は、本の普及を促進させるのではなく逆に妨げになっている」という調査結果が報告されていたことも知られています。
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レダ議員は当初、「欧州委員会は単純に報告書の存在を忘れ去っていたのだ」と考えていたのですが、調査の結果、多くの証拠が「欧州委員会は自分たちのアジェンダに合わせるために故意に研究結果を無視するという選択をした」ということを示していたそうです。2016年に欧州委員会は大ヒット映画の売上げと映画の違法ダウンロードの関連性に関する記事を公開したのですが、この記事の元となった研究に含まれる「音楽・電子書籍・ゲームに関してはネガティブな影響力は確認されていない」「ゲームに関しては、むしろ、ポジティブな影響力が確認された」という内容については発表していません。また、レダ議員が情報公開を求めたにも関わらず、2度も締切が破られたということからも、レダ議員は「欧州委員会は情報を故意に非公開にしている」と考えています。
欧州委員会は、サービスプロバイダに著作権侵害フィルターの実装を義務化する著作権法の改正案を発表しています。今回の調査結果公開がこのような動きにどう影響を与えるかはわかりませんが、レダ議員は、「積極的に情報公開を求める人がいなくとも、欧州委員会はこのようなデータを全ての人に公開すべきだ」と記しています。
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