【訃報】ポリオで呼吸不全になっても「鉄の肺」で70年以上生き続けたポール・アレクサンダー氏が78歳で死去
1952年に6歳で急性灰白髄炎(ポリオ)と診断され、呼吸筋のマヒによって呼吸不全になりながらも「鉄の肺」と呼ばれる大型人工呼吸器によって70年以上生き続けたポール・アレクサンダー氏が、現地時間の2024年3月11日に78歳で死去しました。
Fundraiser for Paul Alexander by Christopher Ulmer : Helping Paul Alexander (The Man in the Iron Lung)
https://www.gofundme.com/f/IronLungsPaul
Paul Alexander, polio survivor in iron lung for over 70 years, dies at 78 after Covid diagnosis
https://www.nbcnews.com/news/us-news/paul-alexander-polio-survivor-iron-lung-70-years-dies-78-covid-diagnos-rcna143137
‘Polio Paul,’ who spent most of the past 70 years in an iron lung, dies at 78 | CNN
https://edition.cnn.com/2024/03/13/health/paul-alexander-polio-iron-lung/index.html
Paul Alexander, lawyer who lived for decades with an iron lung, dies aged 78 | Texas | The Guardian
https://www.theguardian.com/us-news/2024/mar/13/paul-alexander-lawyer-who-lived-for-decades-with-an-iron-lung-dies-aged-78
Paul Alexander, polio survivor who lived in iron lung for 70 years, dies age 78 | Live Science
https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/paul-alexander-polio-survivor-who-lived-in-iron-lung-for-70-years-dies-age-78
1946年に生まれたアレクサンダー氏は当時6歳だった1952年、ポリオウイルスによるウイルス性感染症であるポリオを発症しました。ポリオは脊髄の灰白質が炎症を起こす病気であり、約200人に1人ほどの割合で不可逆性のマヒが起こり、マヒ型ポリオ患者の5~10%は呼吸筋の機能不全によって死に至ります。
アレクサンダー氏は首から下がマヒしてしまったため呼吸不全となりましたが、「鉄の肺」と呼ばれる大型の人工呼吸器に入ることで助かりました。鉄の肺は患者の首から下を気密タンクに入れ、タンク内を陰圧にして患者の胸郭を広げることで強制的に吸気を起こし、その後圧力を戻すことで肺をしぼませて呼気を起こさせる仕組みです。この繰り返しによって、呼吸筋がマヒしていても呼吸を行わせることが可能です。
母親であるドリス・アレクサンダー氏はかつて、「医者は、ポールが生きられる可能性は低いだろうと言いました」「何度か停電し、鉄の肺のポンプを手で動かさなければいけない時がありました。その時は近所の人たちが駆け寄ってきて、ポンプを動かすのを手伝ってくれました」と語っていました。
鉄の肺の中で暮らすアレクサンダー氏の様子は以下の動画で確認できます。
Living inside a canister: Dallas polio survivor is one of few people left in U.S. using iron lung - YouTube
部屋の真ん中に置かれた巨大なタンク型の機械が、アレクサンダー氏が入っている鉄の肺です。
アレクサンダー氏の頭は鉄の肺から出ており、会話や飲食もできます。
介護士に身だしなみを整えてもらっているアレクサンダー氏。
幼少期に自発呼吸ができなくなったアレクサンダー氏でしたが、学校に通えない状態でありながらもホームスクールで勉強を続けました。さらに、舌や咽頭を利用して空気を飲み込むことで肺に送り込む「舌咽頭呼吸法」を習得し、1日に数時間であれば鉄の肺を離れることが可能となりました。アレクサンダー氏によると、舌咽頭呼吸は自転車に乗るようなものであり、起きている時にしかできないとのこと。そのため、外出の必要がない時や寝ている時は変わらず鉄の肺の中で暮らしていました。
外出可能になったアレクサンダー氏は大学に進学して弁護士となり、裁判に出廷したり飛行機に乗って旅行したりすることもできました。晩年にはほとんどの時間を鉄の肺で過ごすようになりましたが、2020年には自叙伝「Three Minutes for a Dog: My Life in an Iron Lung」を出版したほか、2023年1月には「ironlungman」の名前でTikTokアカウントを開設するなど精力的に活動を続けました。また、2023年3月には「世界で最も長く鉄の肺で生き続けている人物」としてギネス世界記録にも認定されました。
そんなアレクサンダー氏でしたが、2024年2月下旬に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だと診断され入院していたことが、同氏のソーシャルメディアマネージャーにより報告されていました。2月末の時点でアレクサンダー氏は陰性判定を受けて退院していましたが、飲食に苦労するほど弱った状態だったとのこと。
その後、アレクサンダー氏を支援するために開設されたクラウドファンディングサイトのGoFundMeのページで、3月11日にアレクサンダー氏が亡くなったことが報告されました。享年78歳で、死因は公開されていません。アメリカの障害者権利活動家であるクリストファー・ウルマー氏は、「幼少期にポリオを生き延びた後、彼は70年以上も鉄の肺で生き続けました。この間、ポールは大学に進学し、弁護士となり、作家になりました。彼の物語は遠くまで伝わり、世界中の人々にポジティブな影響を与えました。ポールは記憶に残る素晴らしいロールモデルでした」と述べています。
なお、1950年代にはポリオワクチンが開発され、3つの血清型のうち2つの型はすでに根絶が宣言されています。国立感染症研究所によると、2022年の野生型ポリオウイルスによる症例数は全世界で30件にとどまり、35万件以上の症例があった1988年から大幅に減少しました。
鉄の肺もポリオ症例数の減少に伴って使用されなくなりました。今日では呼吸の助けが必要なポリオ患者に対し、気道挿入型やフェイスマスク型の人工呼吸器が提供されているとのことです。
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