サイエンス

強磁性体でも反強磁性体でもない「第三の磁性体」である「Altermagnetic」(アルター磁性体)がついに確認される、より高密度なHDDや磁気コンピューターの実現につながる可能性あり


強磁性体反強磁性体の特性を併せ持った「第三の磁性体」として存在が期待されていた「Altermagnetic」(アルター磁性体)が初めて確認されました。アルター磁性体は、新種の磁気コンピューターの製造などに役立つことが期待されています。

Altermagnetic lifting of Kramers spin degeneracy | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06907-7


The existence of a new kind of magnetism has been confirmed | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2417255-the-existence-of-a-new-kind-of-magnetism-has-been-confirmed/

Altermagnetism experimentally demonstrated
https://phys.org/news/2024-02-altermagnetism-experimentally.html

磁性は磁場の中に置かれた時に、物質が他の物質に引力や斥力をおよぼす現象のひとつです。磁性は物体を構成する電子のスピンにより起きる現象で、電子のスピンが同じ方向を向いている際に、強磁性となります。


20世紀まで、外部から磁場や電流の供給を受けなくとも磁石としての性質を長期にわたって保持できる永久磁石は強磁性体のみであると考えられていました。なお、強磁性体は冷蔵庫やコンパスの針など、さまざまなパーツとして応用されています。

1930年代、フランスの物理学者であるルイ・ネール氏が電子スピンが交互に上下する反強磁性と呼ばれる新種の磁性を発見しました。反強磁性体には強磁性体のような外部磁場を持ちませんが、電子スピンの回転方向が交互に異なるため、興味深い内部磁性を示します。

さらに2019年になると、ある種の反強磁性体の結晶構造において、従来の理論では説明できない「異常ホール効果」(磁性体に電場をかけると、電場と平行方向だけでなく垂直方向にも電流が生じる現象)が発生することが確認されました。この時、電流は外部磁場がなくても流れていたそうです。

その後の研究では、異常ホール効果を引き起こす結晶構造を電子スピンの観点から分析した結果、「Altermagnetism」(アルター磁性)と呼ばれる新種の磁性が存在しているのではないかと提唱されました。研究では「アルター磁性体は反強磁性体のように見えるものの、電子スピンはどの角度から回転させても同じように見える」とされており、これは異常ホール効果の理論を正確に説明するものでした。しかし、結晶の電子構造を実際に確認するには至っていなかったため、アルター磁性が本当に存在するものなのかについては確信が得られていませんでした。


そんな中、スイスのパウル・シェラー研究所に務めるユライ・クレンパスキー氏ら研究チームが、これまで反強磁性体であると考えられていたテルル化マンガンの結晶内の電子構造を測定し、アルター磁性の存在を確認することに成功しています。

研究チームは光がどのようにテルル化マンガンに跳ね返るかを測定し、結晶内部の電子のエネルギーと速度を測定しました。これらの電子をマッピングしたところ、アルター磁性体のシミュレーション結果とほぼ一致することが明らかになっています。電子は2つのグループに分かれることで、結晶内部での電子の異常な動きを可能としており、これがアルター磁性の特性の源になっていると研究チームは指摘しました。

クレンパスキー氏は「今回の研究結果はアルター磁性体について語ることができる直接的な証拠であり、アルター磁性体が理論で推測された通りの振る舞いをすることが証明されました」と述べました。

イギリスのヨーク大学に在籍するリチャード・エバンス氏は、「アルター磁性体が実際に存在するということは本当に素晴らしい検証です」と言及。エバンス氏によると、アルター磁性体は電子が反強磁性体の電子よりも自由に移動できるというだけでなく、強磁性体のように外部磁場がないという特徴も併せ持っていると指摘。この特性を活かすことで、アルター磁性体を用いて干渉しない磁気デバイスを作ることが可能になると示唆しました。

科学系メディアのNew Scientistは「アルター磁性体の特性を用いることで、コンピューターのハードディスクドライブ(HDD)の記憶容量を増大させることができる可能性があります。市販のデバイスには強磁性体材料が詰め込まれているため、外部磁場の干渉に弱いという特性があります。アルター磁性体の場合、既存のものよりも高密度に磁性体材料を詰め込むことができるようになる可能性があります」と記しています。


なお、リーズ大学のジョセフ・バーカー氏は、アルター磁性体の登場により「電流の代わりに磁気スピンを利用して測定や計算を実行する磁気コンピューター」の実現に一歩近づいたと語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
液体がトゲトゲの立体になって動き回る「磁性流体ふしぎ観察キット」レビュー - GIGAZINE

「加熱すると凍る」という不思議な現象に科学者が仰天 - GIGAZINE

コバルト鉄合金の磁気減衰制御効果を科学者が発見、HDDの性能向上に期待 - GIGAZINE

永久磁石を回転させて温度を下げる磁気冷凍システム - GIGAZINE

磁性流体が音に反応したり螺旋を駆け上がったりするムービー - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.