サイエンス

火山噴火で黒焦げになった古代ローマの巻物をAIで解読するコンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」の優勝チームが発表される


イタリア・ナポリ近郊にあるヴェスヴィオ火山は、ポンペイヘルクラネウムなど古代ローマの都市を壊滅させた西暦79年の大噴火で知られています。そんなヴェスヴィオ火山の噴火で黒焦げになった巻物をAIの力で解読するコンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」の優勝チームが発表され、巻物には当時の哲学者が論じた「喜びの源」についての未発表のテキストが含まれていることが明らかとなりました。

Vesuvius Challenge 2023 Grand Prize awarded: we can read the scrolls! | Vesuvius Challenge
https://scrollprize.org/grandprize


First passages of rolled-up Herculaneum scroll revealed
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00346-8

Nat Friedman Embraces AI to Translate the Herculaneum Papyri
https://www.bloomberg.com/features/2024-ai-unlock-ancient-world-secrets/

AI helps scholars read scroll buried when Vesuvius erupted in AD79 | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2024/feb/05/ai-helps-scholars-read-scroll-buried-when-vesuvius-erupted-in-ad79

ヴェスヴィオ火山の噴火によって埋もれたポンペイやヘルクラネウムなどの都市遺跡からは、当時の生活や文化を伝える貴重な遺物が多数出土しています。ヘルクラネウムの都市遺跡にある「パピルス荘」という別荘からは、「ヘルクラネウム・パピルス」と呼ばれる貴重なパピルスが多く発見されましたが、パピルスの中には炭化してもろくなり、開いて読むことが不可能な巻物も含まれていました。

実際にヘルクラネウム・パピルスから出土した巻物のひとつがこれ。すっかり炭化しており、触ることすらためらわれます。


元GitHubのCEOであり古代ローマの文化に興味を持っていた投資家のナット・フリードマン氏は、ヘルクラネウム・パピルスの存在を知り、AIなら人間が読めない黒焦げになった巻物を解読できるかもしれないと考えました。そこでフリードマン氏は、ケンタッキー大学のブレント・シールズ博士らと協力し、ヘルクラネウム・パピルスを解読した人に賞金を出す「ヴェスヴィオ・チャレンジ」を開催しました。チャレンジの詳細については以下の記事でまとめられています。

火山灰に埋もれた古代ローマの巻物を解読したら3000万円がゲットできる「ヴェスヴィオ・チャレンジ」 - GIGAZINE


2023年3月15日にスタートしたヴェスヴィオ・チャレンジには、コンピューターサイエンスに造詣が深い多くの研究者らが参加し、運営チームが提供した巻物のAIトレーニング用スキャンデータの解読作業を行いました。10月12日には、21歳の大学生でSpaceXのインターンであるルーク・ファリター氏が、「πορφυραc(ポルフィラス:紫)」という単語を初めて解読することに成功しています。

火山灰に埋もれて炭化した古代ローマの巻物を解読したら3000万円がゲットできるチャレンジで最初の単語がついに解読される - GIGAZINE


ヴェスヴィオ・チャレンジへの応募は12月31日に締め切られ、18件の応募データうち12件がパピルス学者の委員会に提出され、審査を受けました。その結果、最初に巻物の単語を解読したファリター氏、ベルリン自由大学の博士課程に在籍するユセフ・ネイダー氏、スイス連邦工科大学チューリッヒ校でロボット工学を専攻するジュリアン・シリガー氏のチームが、満場一致で最優秀賞に選ばれました。

ヴェスヴィオ・チャレンジで設定された最高賞金は70万ドル(約1億400万円)と非常に高額でしたが、この賞金を獲得するには「2023年末までに、少なくとも140字の連続した文章を4つ、85%以上の精度で解読する」という高難易度の課題を達成する必要がありました。しかし、3人のチームはなんと15列以上、合計2000文字を超えるテキストを解読することに成功しました。

以下の画像は、ファリター氏らのチームが解読したテキストを元に巻物を再現したもの。3人にはヴェスヴィオ・チャレンジから70万ドルの賞金が授与されます。また、残りの提出物のうち3組のチームが高い精度での解読に成功したため、準優勝としてそれぞれ5万ドル(約740万円)が授与されるとのことです。


今回、ファリター氏らのチームが解読に成功したテキストは巻物全体の約5%に相当するとのことで、歴史学者からも称賛と驚きの声が上がっています。審査員の1人でありミシガン大学の西洋古典学教授を務めるリチャード・ヤンコ氏は、「手に入ったばかりの古文書をじっと見つめ、ある程度判読が可能な初めてのスキャンの写本を開始するのは、非常に感動的な経験でした」と述べています。シールズ博士は、「このコンテストは、『こんな方法がうまくいくのか?』という空気を一掃しました。もはや誰もそれを疑っていません」とコメントしました。

チームが解読したテキストは、エピクロス主義における最高の善である「喜びの源」について論じるものだとのことで、著者はエピクロス派の哲学者・ピロデモスではないかと推測されています。ピロデモスは一時期パピルス荘に住んでいたとみられており、著作の一部がパピルス荘から見つかっているとのこと。

ファリター氏らは、「著者は巻物の連続する2つの段落の断片で、食べ物などの品物の入手可能性が、それがもたらす喜びに影響を与えるのかどうか、またはどのように影響を与えるのかに関心を寄せています。大量に手に入る物よりも、少量しか手に入らない物の方が喜びは大きいのでしょうか?著者はそう考えていません。『食べ物の場合もそうだが、乏しい物が豊富な物より絶対的に善いとすぐには思えない』と著者は述べています」と解説しています。


今回の結果は、黒焦げになった巻物からテキストを解読できることを示すものであり、全層が発掘されていないパピルス荘のさらなる調査を行うべきかどうかの議論にも影響を与えます。ヤンコ氏らは、別荘の本図書館はまだ見つかっておらず、さらに数千冊もの書物が地下に眠っている可能性があると考えているとのこと。

フリードマン氏は2024年も新たなヴェスヴィオ・チャレンジの賞を設定し、2024年末までに巻物の85%を解読することを目指しています。また、パピルス荘のすぐ近くにスキャナーを設置し、1日に数トンもの巻物をスキャンすることも検討しているそうです。「アリストテレスの対話が1つでも、失われた美しいホメーロスの詩が1つでも、ローマ帝国の将軍が放浪しているイエス・キリストについて送った伝令が1つでも見つかれば、その価値は十分にあります」と、フリードマン氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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