サイエンス

運動後の筋肉痛に乳酸は関係がない


よく筋肉痛になったとき「乳酸がたまっている」などと表現しますが、実際には痛みと乳酸は無関係であることが研究によりわかっています。では実際には、なぜ運動したあと筋肉痛になるのか、クイーンズランド工科大学のロバート・アンドリュー・ロベルグス氏とサミュエル・L・トレンス氏が謎をひもといています。

Why are my muscles sore after exercise? Hint: it's nothing to do with lactic acid
https://theconversation.com/why-are-my-muscles-sore-after-exercise-hint-its-nothing-to-do-with-lactic-acid-214638


運動後に発生する「遅発性筋肉痛」は乳酸のせいで引き起こされるわけではないことは、1983年のジェームス・A・シュベーネ氏らによる論文で指摘されています。この論文は「ランニング後の遅発性筋肉痛は、運動中の乳酸の生成と関連がある」という仮説を検証する内容で、45分間のトレッドミルでは乳酸濃度は上がったものの筋肉痛は起きず、下り坂のランニングでは乳酸濃度は上がらなかったものの筋肉痛になったことから、乳酸と遅発性筋肉痛とは関係がないということを示しています。

Is Lactic Acid Related to Delayed-Onset Muscle Soreness? - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27409551/


ロベルグス氏らによると、筋細胞が産生するのは乳酸(lactic acid)ではなく乳酸塩(lactate)であり、これ自体は筋肉と血流に酸が蓄積しないようにするプロセスなので、筋肉痛には結びつかないとのこと。

では筋肉痛がなぜ起きるかという点について、ロベルグス氏らは「運動中・運動直後の急性筋肉痛と、運動して数時間~数日後に出る遅発性筋肉痛で原因は異なる」と述べています。


運動時に筋細胞では数多くの化学反応が発生しています。これらの反応は細胞内に水を取り込み、多くの生成物や副産物を生み出します。これにより筋細胞内や筋細胞間で圧力が上昇し、筋細胞からの分子の動きと相まって神経終末を刺激し、不快感をもたらします。これが急性筋肉痛です。

一方、激しい運動や慣れない運動をすると、筋肉や腱の接続部分が損傷します。この損傷は、筋細胞からイオンやその他の分子を放出させ、局所的な腫れや神経終末への刺激の原因となります。この腫れや刺激が、遅発性筋肉痛です。


幸いなことに、遅発性筋肉痛を引き起こすような運動には、筋細胞はあっという間に適応し、その運動のインターバルがおよそ2週間以内なのであれば、次に同じ運動をするときの筋肉痛は激減します。「ハイキングに行く」や「ハーフマラソンを走る」といった目標に向けてトレーニングする場合、筋肉は遅発性筋肉痛を予防するかのようにどんどんと適応してきます。そして運動による疲労感が減ると、運動はどんどん楽しいものになり、日課や習慣として継続しやすいものになっていきます。

運動に取り組んでも筋肉痛で諦めてしまうという人は、筋肉が適応するまでじっくりと進めてみてください。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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