サイエンス

植物の根に電気刺激を与えると成長が促進されることが判明


人間などの動物と同様に植物にも電気信号が流れており、電気的活動によって食虫植物が動いたり食べられそうになった時に警告したりしています。新たに、スウェーデンのリンショーピング大学が率いる研究チームが、「オオムギの根に電気刺激を与えると成長が促進される」という研究結果を報告しました。

eSoil: A low-power bioelectronic growth scaffold that enhances crop seedling growth | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2304135120


Electronic “soil” enhances crop growth - Linköping University
https://liu.se/en/news-item/elektronisk-jord-okar-tillvaxten-hos-grodor

Zapping Baby Plant Roots With Electricity Boosts Growth by 50% : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/zapping-baby-plant-roots-with-electricity-boosts-growth-by-50

世界人口が増加する中で食糧問題も深刻化しており、国連食糧農業機関(FAO)は2022年に飢餓に直面した人は7億8300万人に達し、2019年と比較して1億2200万人も増加したと報告しています。激化する食糧問題への解決策として、穀物や野菜などの収量を効率的に増やす方法に注目が集まっています。

水耕栽培は土壌を使わずに水・栄養素・根を固定する足場のみを用いるため、他の農法よりも少ない水や肥料で植物を育てることができ、土壌が植物に適していない地域でも野菜などを収穫できます。また、露地栽培に比べて必要な作付面積が少なく、栽培設備を縦に重ねることもできるため、ビルや倉庫内に次世代の「垂直農場」を作ることも可能だとのこと。

リンシェーピング大学有機エレクトロニクス研究所の准教授であるエレニ・スタヴリニドウ氏は、「世界の人口は増加しており、気候変動も起きているため、既存の農法だけで地球の食糧需要をまかなえないことは明らかです。しかし、水耕栽培を利用すれば、都市でもよく管理された環境で食物を育てることができるのです」と述べています。

スタヴリニドウ氏らの研究チームは水耕栽培での収穫量を増加させるため、「オオムギの苗の根に一定の電圧をかける低電力な水耕栽培システム」を開発しました。このシステムでは、オオムギは「eSoil」と呼ばれる導電性の足場に固定され、5日間にわたり低電圧を加えられました。


eSoilは植物の細胞壁の主成分でもあるセルロースに、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)と呼ばれる伝導性高分子を混合したものです。


研究チームは発芽してから5日後のオオムギをeSoilに置き、5日間にわたり低電圧を加えたまま育て、さらに電気刺激をオフにして5日間育てました。こうして合計15日間育てたオオムギの乾燥重量を、電圧を加えないで15日間水耕栽培したオオムギの乾燥重量と比較しました。

その結果、電気刺激を受けたオオムギは比較対照のオオムギと比較して乾燥重量が平均50%も重く、30%も長く成長したことがわかりました。電気刺激がオオムギの成長を促進するメカニズムは不明ですが、実験では電圧を加えられたオオムギが硝酸塩をより効率的に窒素含有バイオマスへ変換することが示唆されています。

スタヴリニドウ氏は、「この方法でより少ない資源で苗をより速く成長させることができますが、実際にどのように作用するのか、どのような生物学的メカニズムが関与しているのかはまだ不明です。私たちが発見したのは、苗が窒素をより効率的に処理することですが、電気刺激がこのプロセスにどのような影響を与えるのかはわかっていません」とコメントしました。


また注目すべき点として、オオムギの成長に差が出たのは電気刺激を受けている最中ではなく、電極のスイッチを切ってから栽培が終わるまでの5日間で起きたことも挙げられています。これは、5日間よりも短い電気刺激であっても、植物の成長に持続的な影響を及ぼす可能性があると示唆するものです。

研究チームは論文で、「結論として、私たちはバイオエレクトロニクス成長足場である『eSoil』を開発し、水耕栽培におけるオオムギの苗の成長を、電気刺激を与えた後に平均50%向上させました」「しかし、私たちの研究は苗に焦点を当てたものであったため、成長初期段階の刺激による成長促進が植物の成長サイクル全体に影響を及ぼすかどうかを知るには、さらなる研究が必要です」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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