生き物

植物が緑色なのは光合成を最大効率で行うためではなくエネルギーの入出力を安定させるため


太陽が放射するエネルギーの多くは、波長でいうと緑色の部分に相当します。植物が緑色に見えるのは、赤や青の波長の光をほとんど吸収する一方、緑色の光は約90%しか吸収せずに残りを反射しているためなので、エネルギーのことを考えると「すべて吸収した方が効率が良くなるのでは?」と思ってしまうところ。しかし、実際には、植物は光合成を最大効率で行おうとは思っておらず、むしろエネルギーの入出力を安定させるためにもこのほうがよいのだそうです。

Why Are Plants Green – World Sensorium / Conservancy
https://worldsensorium.com/why-are-plants-green/

Quieting a noisy antenna reproduces photosynthetic light-harvesting spectra | Science
https://doi.org/10.1126/science.aba6630

生物学者らは、植物が赤や青の光をほぼ吸収するのに緑の光は約90%しか吸収しないことについて、「植物が無害なまま利用するためには、緑の波長の光は強いのではないか」という見解を示してきましたが、その具体的な理由は明らかになっていませんでした。


この謎に迫ることになったのは、カリフォルニア大学リバーサイド校の物理学者、ナサニエル・ガボール教授です。ガボール教授は、カーボンナノチューブによる太陽光吸収を研究していて、太陽スペクトルのピークエネルギーを吸収する理想的な集光システムを考えたとき「緑色の波長の光をできるだけ吸収すればよいのではないか」と思うのと同時に「でも、植物はそうしていない」と気付きました。

そして、ガボール教授はグラスゴー大学の植物学者リチャード・コグデル氏らとともに植物の研究を開始しました。

光合成は「光捕集複合体」という、タンパク質の網目状になった組織で行われます。植物の場合、クロロフィルという緑色色素が光を吸収し、光合成反応中心へエネルギーを伝達することで、細胞が使用する化学エネルギーが生産されることになります。このシステムの変換効率はほぼ完璧で、吸収した光はほぼすべて、システムで利用可能な電子に変換されるとのこと。


しかし問題となるのは、「光捕集複合体」が細胞内で常に動いているので、システムにノイズや非効率性がもたらされるという点です。たとえば、植物が日陰に入ると光の強さが急激に変化するため、ノイズが生じます。もし光合成反応中心に到達する電子が少ないとエネルギー障害が発生します。一方で、多すぎても「過充電」状態になり、組織がダメージを負ってしまいます。つまり「エネルギーの入出力は安定していた方がよい」といえます。

ガボール教授の手がけたナノチューブ太陽電池の場合、エネルギーの最大効率を目指せばよいので、緑色の波長をフルに取り込むシステムでも問題なかったのですが、植物にとってはノイズの変動が大きくなるため、緑色の波長の光をフルに吸収するシステムは有害になる、というわけです。

ガボール教授らが光合成システムのモデルを開発して研究を重ねたところ、最適な吸収ピークと細胞の色素の活性が紅色細菌や緑色硫黄細菌などでも一致することがわかりました。

ガボール教授はいつかこのモデルを地球外の生命体にも適用したいと考えているとのことで、「今後20年以内に、この疑問に答えることができるだけの、系外惑星に関する十分なデータが得られるでしょう」と語っています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by logc_nt

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