微生物を体内に取り込んで光合成させることで窒息した状態から生命活動を回復できるという衝撃の研究結果が発表される
脊椎動物の生命活動を支える脳には酸素が欠かせないため、重度の低酸素環境に置かれて窒息した生物は、神経活動を停止してしまいます。ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学の研究チームが2021年10月に公開した論文では、窒息により神経活動が完全に停止したオタマジャクシの脳に藻類を注入することで、脳内に酸素が生成されて神経活動を再開し「生き返った」ことが発表されました。
Green oxygen power plants in the brain rescue neuronal activity
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(21)01126-3
Injecting Algae Into Suffocated Tadpoles Brings Their Brain Cells Back to Life
https://www.sciencealert.com/injecting-algae-into-the-brains-of-suffocating-tadpoles-keeps-their-neurons-alive
脊椎動物が必要とする酸素は、主に肺やエラ、皮膚から取り込まれます。特に脳の活動には、ある程度の量の酸素が継続して供給される必要があります。そのため、深海へのダイビングや高高度での飛行といった低酸素環境では、酸素供給量をキープすることが重要な課題になります。
酸素を発生させる手段の一つが緑色植物による光合成で、実際に光合成を行う生物と海中動物の自然な共生作用が報告されています。今回ルートヴィヒ・マクシミリアン大学が行った実験は、アフリカツメガエルのオタマジャクシの体内に光合成を行う藻類を注入して強い照明を当てることで、体内で光合成を発生させて脳まで酸素の供給を行おうというもの。
以下の画像左のように半透明のオタマジャクシに緑色プランクトンを注射すると、画像中央・右のようにオタマジャクシが緑色に染まっていくのがわかります。
また、顕微鏡で体内組織を拡大して見ると、オタマジャクシの微細血管まで光合成可能な緑色のプランクトンが拡散していることがわかります。
以下の画像をクリックすると、心臓に注射された藻類プランクトンが血管を通って広がっていくムービーを見ることができます。
実験では、オタマジャクシに藻類プランクトンを注入した後、神経系の一部を分離することで通常の自力での神経活動を不可能にしました。結果として、光を照射された体内のプランクトンが酸素を発生させることで、それが脳活動の代用として機能したと報告されています。
以下の画像では、光を当てた時と暗闇にした時を交互に繰り返すことで、それに対して神経活動がどのように反応したのかが示されています。赤枠で囲っているように、光が当てられてしばらくすると神経活動に反応が生まれ、光が消えて一定時間経過するとまた活動が停止する、ということが分かります。
この研究によって、光合成を行う微生物が生物の脳活動を救う能力を示すことができると研究チームは述べています。これは、将来的に病理学障害を助ける方法として酸素レベルを増加させる手段の提供も行うことも期待できるとのこと。
しかし、この実験は透明のオタマジャクシだからこそ照射された光が皮膚を透過して体内の微生物に作用することができたものであり、あくまで微生物が酸素を供給できるという原則を証明したにすぎません。また、研究チームは実験結果が非常に革新的でありながら、微生物を体内に注入することの長期的な免疫応答などの有害なリスクも認めており、より長期の実験や応用分野への展開が必要だと述べています。
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