サイエンス

「二酸化炭素を食べる大腸菌」が遺伝子操作で誕生

by geralt

通常は有機物を消費して二酸化炭素を排出する大腸菌を、「二酸化炭素を吸収して成長する」ように遺伝子を操作することに成功したと、イスラエルの研究チームが発表しました。科学雑誌のNatureによると、二酸化炭素を食べる独立栄養生物となった大腸菌はバイオ燃料として、あるいは大気中の二酸化炭素の増加を抑えるアイデアとして期待できるとのことです。

Conversion of Escherichia coli to Generate All Biomass Carbon from CO2: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)31230-9


E. coli bacteria engineered to eat carbon dioxide
https://www.nature.com/articles/d41586-019-03679-x


植物や光合成を行うシアノバクテリアは、光のエネルギーを利用して二酸化炭素を炭水化物に変換する独立栄養生物です。しかし、これらの生物は遺伝子組み換えが難しく、生物工学への応用がそれほど進んでいないのが現状だとのこと。

それに対して、大腸菌は遺伝子操作が比較的容易。さらに大腸菌は培養しやすく成長も早いので、遺伝子変化を最適化したり、変化を迅速に試験したりすることが簡単になります。ただし、大腸菌はグルコースなどの糖から炭素を獲得して代謝に利用し、二酸化炭素を廃棄物として排出する従属栄養生物です。

by Anthony D'Onofrio

イスラエルのワイツマン科学研究所に勤めるシステム生物学者のロン・ミロ氏は、グルコースではなく二酸化炭素を炭素源として利用する大腸菌の研究を行っています。大腸菌が二酸化炭素を消費するようになれば、地球温暖化の影響を潜在的に抑制することが期待できるとミロ氏は主張しています。

ミロ氏の率いる研究チームは最初に、植物やシアノバクテリアが光合成で使う酵素を発現する遺伝子を、大腸菌のDNAに挿入しました。この酵素は、二酸化炭素から有機物を合成するために必要なエネルギーを光エネルギーから得ることができます。しかし、大腸菌は光合成を行わなかったとのこと。そこで、研究チームはギ酸から電子を取り出してエネルギーに変換する酵素の遺伝子を大腸菌のDNAに挿入しました。

しかし、それでも大腸菌は二酸化炭素を「主食」としませんでした。そこで研究チームは地球大気のおよそ250倍の濃度の二酸化炭素とごく少量のグルコースだけを与えて大腸菌を培養し、環境適応によって二酸化炭素だけを炭素源とする大腸菌に突然変異することを期待しました。そして、培養を開始してからおよそ200日後に、ついに二酸化炭素のみから有機物を合成できる大腸菌株が登場しました。


実験室条件下で独立栄養生物に生まれ変わった大腸菌株は、二酸化炭素濃度10%の大気中であれば、およそ18時間ごとに倍増するそうです。ただし、地球大気程度の二酸化炭素濃度(およそ0.04%)では、グルコースなしで生存することはできないとのこと。ミロ氏らは、「大腸菌が二酸化炭素を吸収するように進化していった過程を明らかにすること」「バクテリアの成長速度をもっと早くし、より低い二酸化炭素濃度でも成長できるようにすること」を今後の課題としています。

ミシガン州立大学の生物工学者であるシェリル・カーフェルド氏は「ミロ氏らの研究はマイルストーンであり、生物工学と進化を融合させることで自然のプロセスを改善できることを示しています」とコメントしています。マックス・プランク微生物研究所の生物学者であるトビアス・アーブ氏は「ミロ氏らが発表した研究論文は、概念の実証を示すものです。この大腸菌が最適化されるまでには数年かかるでしょう」と推測しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1i_yk

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