腸内細菌は薬を「蓄積する」ことが新たに判明、薬の効果を低下させる可能性あり
人の腸には腸内細菌叢と呼ばれる、健康と病気に影響する何百種類もの細菌のコミュニティが存在します。腸内細菌叢の組成は人によって大きく異なり、肥満、免疫応答、メンタルヘルスなどのさまざまな状態に関連していることがこれまでの研究で示されていますが、新たに、人間用の薬を腸内細菌叢の細菌が「蓄積する」ことが実験で示されました。細菌による薬の蓄積は薬の効果に影響する可能性があるほか、蓄積された薬により腸内細菌叢が変化する可能性も示唆されています。
Bioaccumulation of therapeutic drugs by human gut bacteria | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03891-8
Gut bacteria accumulate many common medications and may reduce their effectiveness | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/gut-bacteria-accumulate-many-common-medications-and-may-reduce-their-effectiveness
Human Gut Bacteria Could Be Accumulating Our Medications Without Us Realizing
https://www.sciencealert.com/the-drugs-you-swallow-are-probably-hijacked-by-microorganisms-living-inside-you
人が服用した薬や化合物に対し、腸内に存在する腸内細菌叢が相互作用を起こすことはこれまでにも知られており、過去の研究ではバイオトランスフォーメーションの発生も報告されていました。バイオトランスフォーメーションは例えば「ビール造りにおいて酵母がホップの成分と反応して起こる化学変化」などを説明する言葉で、生体触媒よって化合物が化学的変化を起こすことをいいます。
しかし、ケンブリッジ大学が発表した新たな研究から、腸内細菌は薬に対してバイオトランスフォーメーションを起こすだけでなく、「薬を細胞内に蓄積する」という働きもすることが判明しました。蓄積が確認されたのは、抗うつ薬のデュロキセチンや抗糖尿病薬のロシグリタゾンなどで、ぜんそく薬のモンテルカストのように「蓄積する細菌」と「バイオトランスフォーメーションを起こす細菌」の両方が確認されることもあったとのこと。
ケンブリッジ大学・MRC Toxicology Unitのキラン・パティル氏によると、実験では人の腸内に存在する25種類の細菌を人間用の薬15種類に暴露したとのこと。「薬と細菌の間に起こる相互作用として私たちが観察した主たるものが『蓄積』だったことは驚きです。これまではバイオトランスフォーメーションが、薬の体に対する可用性に影響を与える主たるものだと考えていました」とパティル氏は述べています。細菌内に蓄積されたデュロキセチンはいくつかの代謝酵素と結合し分泌代謝物を変化させたことから、薬の蓄積がその後の細菌の行動や代謝プロセスを変えてしまう可能性があるほか、腸内細菌のバランスや割合に影響する可能性があるそうです。
今回の研究は実際の人間を対象としたものではなくラボ実験ですが、人間の体でも同様のことが起こるとすると、細菌が薬を蓄積することで、体に対する薬の効果が低下する可能性があると研究者は指摘しています。また、細菌による薬の蓄積が、副作用という形で人体に影響する可能性も考えられるそうです。一方で、パティル氏によると、同じ細菌であっても株によって蓄積に違いがあり、人の腸内細菌叢の構成で蓄積には個人差があると考えられるとのこと。
「私たちの次のステップはこの基礎的な分子研究を進め、個々人の腸内細菌が抗うつ薬などに対するさまざまな反応とどのように関係しているかを調査することです」「微生物叢の組成に応じて人がどのように反応するかを特徴づけることができれば、薬物治療を個別化することができます」とパティル氏はコメント。また研究を主導したピア・ボーク氏はこの研究結果について、「私たちに微生物叢を臓器の1つとして扱うように求めていると言えます」という考えを述べました。
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