サイエンス

微生物で防弾チョッキよりも強力な「人工筋繊維」を構築したという研究結果


アメリカ・ワシントン大学の研究チームが、遺伝子操作した細菌の体内で生成されたタンパク質から「人工筋繊維」を作成したと発表しました。

Microbial production of megadalton titin yields fibers with advantageous mechanical properties | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-25360-6

Synthetic biology enables microbes to build synthetic muscle | The Source | Washington University in St. Louis
https://source.wustl.edu/2021/08/synthetic-biology-enables-microbes-to-build-muscle/

Synthetic Bacteria Can Produce Muscle Fibers Stronger Than Kevlar - ExtremeTech
https://www.extremetech.com/extreme/326567-these-engineered-bacteria-can-produce-muscle-fibers-stronger-than-kevlar

ワシントン大学エネルギー環境化学工学科のChristopher Bowen氏らが行ったのは、筋肉を構成するタンパク質の1種である「チチン」を、遺伝子操作を施した細菌に重合させて繊維を形成するという実験。Bowen氏によると、チチンは自然界に存在する既知のタンパク質の中で最も大きいため、チチンの断片をつなぎ合わせる細菌を遺伝子操作によって生み出し、細菌によって生み出される一般的なタンパク質の50倍のサイズに相当する2メガダルトンのチチンを作成しました。


さらにBowen氏らは、このチチンをセルロースなどの作成に用いられる湿式紡糸法によって束ね合わせることで、人間の髪の毛の10分の1のサイズに相当する直径10マイクロメートルの繊維を構築。この繊維は同大学のYoungShin Jun教授とSinan Keten教授によって構造分析が行われ、優れた靭性や強度、減衰能、放熱能力などを有していることが確認されました。


共同研究者のCameron Sargent氏によると、作成されたチチンの強度は「防弾チョッキよりも高い」とのこと。さらにSargent氏は、今回のチチンは筋肉組織に含まれるタンパク質とほぼ同等であることから、生体適合性を有していると考えられるとして、縫合糸や再生医療に用いられる組織工学などに適している可能性があると指摘しています。

研究を指導したFuzhong Zhang教授によると、生物の柔軟性を取り入れたロボットである「ソフトロボティクス」などで筋繊維は長らく関心を集めており、今回「人工筋肉を直接作る」という試みを考えるにあたって動物から筋肉を採取するのではなく、微生物に体内合成させるというアプローチを採用したとのこと。Zhang教授は「この研究は転用性に優れています」と述べて、自然界から得たタンパク質を同様の手法で重合することで、より重合度の高いタンパク質を持続的に生み出せると説明しました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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