イルカはエサが豊富なほど社交的になるという研究結果
イルカはとても賢い動物であり、群れの中でコミュニケーションを取って社会的な関係を築いています。そんなイルカは「エサが多い時期」になるとより社交的になることが、スコットランド・アバディーン大学の研究で明らかになりました。
Dolphin social phenotypes vary in response to food availability but not the North Atlantic Oscillation index | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.1187
Dolphin friendships facilitated by fishy feast! | News | The University of Aberdeen
https://www.abdn.ac.uk/news/22363/
多くの動物は同じ個体同士でコミュニケーションを取っており、そこで生まれる社会的相互作用が群れとしての行動などに影響します。また、環境変化に応じて個体の社会的行動が変わることもわかっており、環境が動物の行動に及ぼす影響を理解することは野生動物の保全にとって重要です。
今回、アバンディーン大学の研究チームは、世界中の海に分布するバンドウイルカの社会的行動が、「エサの豊富さ」や「気候の変動」によって変化するのかどうかを調査しました。研究を主導したデイヴィッド・フィッシャー博士は、「私たちはバンドウイルカの長期研究の一環として、エサとなるサケの数や気候の変化が、社会的行動にどのような影響を与えるのかを調べたいと考えました」と述べています。
アバンディーン大学は継続的に、スコットランド東海岸に生息するバンドウイルカの個体群を追跡しており、毎年小型ボートからバンドウイルカの写真を撮影しています。写真はボートから100m以内にバンドウイルカが近づいた時に撮影され、以前に撮影された個体と照合することで、バンドウイルカを個体ごとに識別しているとのこと。
研究チームはバンドウイルカの社会的関係について調べるため、1990年~2021年にかけて撮影された写真を分析しました。一緒に撮影された個体同士は「社会的関係がある」と判定され、どの個体とどの個体がいつ社会的関係を持っていたのか、あるいは関係していなかったのかを調査しています。
そして、バンドウイルカの社会的関係に影響する可能性がある環境要因の指標としては、北大西洋における気圧の変動を示す「北大西洋振動指数」と、漁獲量データに基づいた「アトランティックサーモンの量」が用いられました。北大西洋振動は動物の個体群の生態系と関連付けられることが多く、アトランティックサーモンはバンドウイルカの個体群にとって重要な栄養源だとのこと。
分析の結果、バンドウイルカはサケの量が少ない月よりもサケの個体数が多い月の方が、より他の個体との社会的相互作用が多いことがわかりました。フィッシャー博士は、「これは食物を巡る競争の減少により、イルカたちがより社交的になるためかもしれません」と述べています。
より詳しく見ると、エサとなるサケの個体数が多い場合、月単位の短期間では個体群の中でも近隣および遠方のイルカとの社会的相互作用が増しましたが、年単位の長期間だと遠方のイルカとの社会的相互作用は減少したとのこと。これは、サケが少ないとイルカはエサを求めて遠方まで移動するため、エサが豊富だと遠方のイルカとの関わりが弱くなるためと考えられています。
また、北大西洋振動指数はバンドウイルカの社交性に影響を及ぼさなかったことも判明しました。フィッシャー博士は、「私たちの研究では、イルカが大気の状態に応じて社会的行動を変化させなかったこともわかりました。これは、一定の規則的な気候サイクルが、イルカの行動に直接影響しないことを示唆しています。この点がわかれば、イルカのような動物の個体群が気候変動にどのように反応するかについての予測が容易になります」と述べました。
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