サイエンス

将来進化したイルカやシャチが陸上に進出してくる可能性はあるのか?


イルカは非常に知能が高いことが知られているため、「もしかしたら将来地上に進出してきて人類を脅かすかも」と心配を抱いたことがある人もいるかもしれません。しかし、5600種以上の哺乳類の形態を分析した研究により、陸上から水中に適応した哺乳類が再び陸上に戻るよう進化することは不可能に近いことが確かめられました。

Dollo meets Bergmann: morphological evolution in secondary aquatic mammals | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.1099

Dolphins and orcas have passed the evolutionary point of no return to live on land again | Live Science
https://www.livescience.com/animals/marine-mammals/dolphins-and-orcas-have-passed-the-evolutionary-point-of-no-return-to-live-on-land-again

人類などの地上の脊椎動物は、3億5000万年前から4億年前の間に水中から地上にはい上がった魚類が祖先だと考えられています。陸上に進出した魚類はその後、四肢を発達させて両生類、は虫類、そして哺乳類などに枝分かれしていきました。これらの4本の足を持つ魚以外の脊椎動物は、ヘビやクジラなども含めて「四肢動物」と呼ばれています。

海を離れた哺乳類のほとんどはそのまま陸で暮らすことを選びましたが、イルカなど一部の哺乳類は海に戻って再び水中生活に適応していきました。こうした経緯を踏まえると、一度は陸上で生活したことがあるイルカがまた地上に帰ってくることはそれほど難しくないことのように思えます。


水生動物が陸生動物に戻れるのかを検証するため、2023年7月に英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)に掲載された研究で、スイス・フリブール大学生物学部のブルーナ・ファリーナ氏らは、現存する哺乳類と比較的最近絶滅した哺乳類5635種が進化してきた軌跡から将来の進化の可能性をモデル化して分析しました。

哺乳類の生息域や分類はIUCNレッドリストから収集し、これに過去のさまざまな研究データから取得した体長や体重、食性などに関するデータを追加しました。

そして、これらの動物を水中への適応の度合いに応じて4つのカテゴリに分類しました。1つ目はほぼ完全に陸上で生活するキリンやゴリラなどの「A0」、2つ目はカモノハシのように水生でありながら陸上でも動作に支障がない「A1」、3つ目はラッコのように地上での動作が制限される「A2」、4つ目はクジラのように地上ではほぼまったく生きられない「A3」です。

5635種のうち完全陸生の「A0」が5449種で全体の96.7%を占め、半水生の「A1」および完全水生の「A2」と「A3」は3つ合わせても186種、割合にすると3.3%しかいないとのこと。


研究チームは次に、共通の祖先を持つ種の間の進化関係を調べて、それぞれの種の形質を比較し、特定の形質が進化する確率を推定するモデルを作成して各カテゴリの動物がどのくらいの確率で別のカテゴリに移れるのかを分析しました。

その結果、半水生(A1)と完全水生(A2)のカテゴリの間には境界線があり、この境界線を越えて一度水中に適応すると後戻りはできないことが確かめられました。可逆的な移動は完全陸生(A0)と半水生(A1)の間だけで、このカテゴリの間を移動した種の数の推測値は「A0→A1」が37回、逆の「A1→A0」は22回だったのに対し、A3からA2、A2からA1の移行率はほぼゼロだったとのことです。


このように、進化が不可逆的であるという考え方は、19世紀のベルギーの古生物学者であるルイス・ドロによって提唱されました。「ドロの法則」として知られるこの原理は、ある系統で一度失われた複雑な形質が、その後の世代で再び出現する可能性は低いというものです。

水中生活への移行は、寒冷な環境での保温に役立つ体重の増加や、代謝を支える肉食性の食事など、複数の変化と関連していました。このような変化が、陸上に戻ろうとした水生動物たちの生存競争を厳しいものにしているかもしれないと、研究者らは考えています。


論文の筆頭著者であるファリーナ氏は、今回の研究について「私たちは、完全な陸生から半水生へは少しずつ移行することが可能な一方で、一部の水生適応には不可逆な境界線が存在することを突き止めました。このため、イルカやクジラなど完全に水生の動物が陸に戻ってくる可能性は事実上ゼロです」と話しました。

また、研究には直接携わっていないアイルランド・リムリック大学の比較ゲノム学者のヴィラグ・シャルマ氏は、科学系ニュースのLive Scienceに対して「ドロの法則は、この手のマクロ進化研究には定期的に登場します。中には、この法則に反して『海から陸への移行はまったくありえないわけではない』と唱える向きもありますが、ファリーナ氏らの論文はこの通説の誤りを暴くことができました」と評価しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人類の祖先はなぜ海から陸に進出したのか?という謎について通説を覆す新たな研究結果が発表される - GIGAZINE

生物の進化は決して後戻りしないと専門家、一見すると進化が逆行したように見える「退行進化」とは? - GIGAZINE

「サメに襲われた人をイルカが救う」という物語の真偽を専門家が検証 - GIGAZINE

すばらしく知性が高いことが一発でわかるイルカの漁のムービー - GIGAZINE

ヨーロッパ近海のシャチたちの間で「人間のボートを破壊する遊び」が流行している - GIGAZINE

シャチは人間の言葉をまねできる - GIGAZINE

イルカとイヌはどちらの方がより賢いのか? - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.