このままサム・アルトマンがMicrosoftへ入社するとMicrosoftは実質的にOpenAIの全てを入手することになる
現地時間の2023年11月17日、チャットAI・ChatGPTの開発元として知られるOpenAIが、突如としてサム・アルトマンCEOの退任および退社を発表しました。その後、Microsoftがアルトマン氏を迎え入れることを発表しましたが、なぜこうした一連の動きが発生したのかという原因についてウェブメディアのStratecheryを運営するアナリストのベン・トンプソン氏が分析しています。
OpenAI’s Misalignment and Microsoft’s Gain – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2023/openais-misalignment-and-microsofts-gain/
Microsoftは2019年よりOpenAIに対して数千億円規模の出資を行ったり、AI開発用のスーパーコンピューターを構築してコンピューティングリソースの提供を行ったりすることでOpenAIのAI開発をバックアップしてきました。
Microsoftが汎用人工知能(AGI)開発のため1000億円以上をOpenAIに出資 - GIGAZINE
一方Microsoftはモデルのソースコードや重みを含むOpenAIの全ての知的財産(IP)に対する永久ライセンスを取得し、OpenAIが新たなモデルを開発するたび自社サービスに組み込んで活用しています。当初の契約ではMicrosoftがOpenAIのデータを使用して独自の汎用(はんよう)人工知能を開発するのが禁止されていましたが、最新の契約ではそうした制限が解除されているとトンプソン氏は述べています。
MicrosoftがMicrosoft 365用のGPT-4を搭載した新しいAIツールをまもなく発表と報じられる - GIGAZINE
こうしたMicrosoftとOpenAIの協力関係において、Microsoft側は「元CEOのサム・アルトマン氏や元社長のグレッグ・ブロックマン氏などの主要メンバーがOpenAIを去った場合にOpenAIの技術を活用できる人材が現れるのか」を心配していたとトンプソン氏は分析。サム・アルトマン氏がMicrosoftへ入社することで、こうした懸念点を解消しつつOpenAIの技術を活用して独自のAIを開発できるようになるため、事実上MicrosoftがOpenAIを無料で買収したのと同じだとトンプソン氏は述べています。
トンプソン氏はなぜこうした動きが発生したのかについても分析しています。OpenAIは2015年に非営利のインテリジェンス研究会社としてサム・アルトマン氏やイーロン・マスク氏などによって設立されました。OpenAIは非営利をうたうだけでなく、実際に課税の優遇を受ける非営利組織としての認証を受けており、2016年の最初の申請書には下記の通り記載されていました。
OpenAIの目標は、金銭的利益を生み出す必要性に制約されず、人類全体に最も利益をもたらす可能性が最も高い方法でデジタルインテリジェンスを進歩させることです。私たちは、人工知能テクノロジーが21世紀の形成に役立つと考えており、世界が安全なAIテクノロジーを構築し、AIの恩恵が可能な限り広く均等に分配されるよう支援したいと考えています。私たちは、より大きなコミュニティの一部としてAIを構築しようとしており、その過程で計画と機能をオープンに共有したいと考えています。
ただし、2年後には「AIの開発過程における計画と能力をオープンに共有する」という約束が取り消され、さらに3年後には「デジタルインテリジェンスの進歩」という目標が「汎用人工知能の構築」に置き換わるなど変化していきました。
2018年に最大の寄付者であったイーロン・マスク氏が取締役を辞任するとOpenAIは膨大なコンピューティング費用の支払いを迫られたため、上限付き営利企業「OpenAI Global, LLC」を立ち上げ、Microsoftからの出資を受けるようになりました。
MicrosoftはOpenAIの開発を支援しつつ、WindowsやOfficeを始め、Microsoftのさまざまな製品にOpenAIのテクノロジーを組み込んでいきました。2023年3月にはAI開発用のスーパーコンピューターを数百億円以上費やして構築しており、こうした多大な支出を非営利団体に対して行うのはMicrosoftがサム・アルトマン氏の入社を発表するまではばかげていると思えたとトンプソン氏は述べています。
数百億円超を費やしてMicrosoftがChatGPTの開発元であるOpenAIのためにAI開発用のスパコンを構築 - GIGAZINE
トンプソン氏は「Microsoftのサティア・ナデラCEOは『大企業の勝ち方はスタートアップのように発明することではなく、企業規模を活用して企業を買収したり、迅速にフォローしたりすることであり、特に0円という低価格で実現できればより素晴らしい』と考えているのでしょう」と指摘しています。
なお、記事作成時点ではアルトマン氏のMicrosoftへの移籍は確定しておらず、アルトマン氏は解雇の決定に関わった取締役の辞任を条件にOpenAIに戻る考えを示しています。
サム・アルトマンはまだOpenAIへの復帰を目指しておりMicrosoftへの移籍は保留中、解雇に賛同した取締役全員が去ればOpenAIへ戻ることを示唆 - GIGAZINE
・関連記事
MicrosoftがWindows 10向けにAIアシスタント「Microsoft Copilot」を導入予定 - GIGAZINE
MicrosoftがAIサービスを使った顧客の著作権侵害の訴訟結果はMicrosoftが引き受けるという声明を発表 - GIGAZINE
Microsoftはコード補完AIツール「GitHub Copilot」でユーザー1人あたり月額3000円近くの損失を出しているという報告 - GIGAZINE
Microsoftが独自設計のAI特化型チップ「Maia 100」とArmプロセッサ「Cobalt 100」を発表 - GIGAZINE
Microsoftが干ばつ時でも水を吸い上げてAIの訓練に使っていたとの批判、一方でMicrosoftは小型原子炉をデータセンターの電力源として検討を開始 - GIGAZINE
・関連コンテンツ