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文化財の保護にも活用される「遺産を3Dスキャンして保存する技術」の進歩


ドローン、3Dプリンター、民間の衛星インターネットなどの比較的新しい技術が戦争へ投入されていることが近年伝えられていますが、もうひとつの画期的な技術「3Dスキャン」が、戦争の加速ではなく戦争による文化財の破壊を緩和するために用いられています。現実の物体をスキャンしてデジタルに変換する技術の進歩について、VR研究者のアーロン・フランク氏が解説しました。

A Revolution in Computer Graphics Is Bringing 3D Reality Capture to the Masses
https://singularityhub.com/2023/11/06/a-revolution-in-computer-graphics-is-bringing-3d-reality-capture-to-the-masses/

フランスに拠点を置くユネスコ(国際連合教育科学文化機関)によると、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まった2022年2月24日以降、ウクライナの宗教的・歴史的建造物など文化的に重要な施設327棟が破壊されているとのこと。

戦争により建築物が破壊されることによる文化的損失の影響を少しでも緩和するため、これまで建物をスキャンして3Dモデルを作成するというプロジェクトが何人かの研究者の手で進められてきました。しかし、数年前まではスキャンそのものに高価なツールやソフトウェアが必要だったため、その保護活動はなかなか進まなかったそうです。


その後、技術の進歩に伴い「LiDAR」というリモートセンシング技術が登場します。LiDARは当初数百万円という高価格帯で流通し、自動運転車に搭載されるなどして普及。その後2020年に発売された「iPad Pro」や「iPhone 12 Pro/Pro Max」で一般の人の手にも届くようになり、誰でも迅速かつ安価に詳細な3Dモデルを生成できるようになりました。

Appleだけでなく、Googleも「ニューラル・ラディアンス・フィールド(NeRF)」という3Dデータ合成技術を発表し、わずか数枚の画像から空間データを構築できるようにしました。Googleはこの技術をGoogleマップの3D版であるイマーシブ・ビューに用い、ARによる道案内や情報の表示などに役立てています。


こうした技術の登場によって、少し前までは設備の整ったプロダクションチームだけが制作できたハリウッド級の3Dアセットを、誰でもスマートフォン1台で生成できる時代になったのです。デンマークのユネスコ国内委員会などはウクライナの建物を保存するボランティア活動「Backup Ukraine」を展開していますが、上記のような3Dスキャン技術がなければこうした活動はなしえませんでした。


Backup Ukraineとは、ユネスコなどがウクライナ在住の人々へ協力を呼びかけているプロジェクトです。ウクライナの人々が遺産や記念碑を撮影してタグ付けし、サイトに公開することで、世界中の人々がウクライナに存在するオブジェクトとその場所を確認することが可能となっています。


人々が保存したオブジェクトが、一つ一つ、360度見回せるようになっています。


3D地図作成に携わった元Googleのプロダクト・マネージャーであるビラワル・シドゥ氏によれば、ウクライナでの活動は、3Dキャプチャとグラフィック技術の驚くべき進歩の速さを示す顕著な例だとのこと。シドゥ氏は「キャプチャ技術が人民の手に渡る速度は指数関数的な曲線を描いています。ポケットの中のiPhoneでそのすべてを実現できるのです」と語り、その驚きを表現しました。

シドゥ氏は「VRを利用して、ユーザーが地球上のあらゆる場所を歩き回り、そこで起きていることをリアルタイムで没入的に体験できる技術が存在します」と指摘。実装がいつになるかはわからないものの、実現すれば、アバターを使ったテレポーテーションや遠隔会議、コミュニケーションに大きく役立つとみられているそうです。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by log1p_kr

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