謎の病気に苦しんでいた女性の脳に7cm超のヘビの寄生虫が寄生していたことが明らかに
オーストラリアの脳神経系外科医が、2022年に64歳の女性の脳から生きた3インチ(7.62cm)の線虫を摘出しました。この線虫はヘビの寄生虫であったため、「ヘビの寄生虫が人間の脳で確認されたのは初めて」と報じられています。
Woman’s mystery illness turns out to be 3-inch snake parasite in her brain | Ars Technica
https://arstechnica.com/health/2023/08/australian-woman-has-3-inch-snake-parasite-pulled-from-her-brain/
オーストラリア在住の64歳の女性は、2021年1月頃から腹痛、下痢、空せきといった症状に悩まされており、オーストラリアのニューサウスウェールズ州南東部にある地元の病院を受診しました。血液検査の結果、女性は感染症であると診断されますが、スキャン検査では肺炎の兆候や脾臓(ひぞう)や肝臓での病変が示されたそうです。しかし、既知の微生物や寄生虫に関する検査結果は陰性で、がんや自己免疫疾患に関する検査も陰性となりました。その結果、「原因不明の肺炎」と診断されることとなり、ステロイド薬のプレドニゾロンが投与されることとなります。
それから3週間後、女性は再発する発熱と長引くせきのために別の病院に入院することとなりました。この病院でも医師は、肺・肝臓・脾臓の損傷および感染症の兆候を見つけます。また、血液検査で寄生虫由来の感染症と戦っていることの証である「高濃度の好酸球(白血球の一種)」を検出。ヒト回虫感染症に関する検査では陰性であったものの、偽陰性であることを懸念して、最終的に抗寄生虫薬のイベルメクチンを投与するという治療を実施したそうです。
その後、2021年半ばから2022年初頭にかけて患者女性の肝臓と肺は改善します。好酸球の数を抑えるための別の薬を服用するようになったことで、プレドニゾロンの服用量を抑えることにも成功します。
しかしその後、患者女性は物忘れやうつ病の悪化に悩まされるようになったそうです。そこで磁気共鳴画像(MRI)検査で脳を調べたところ、女性の右前頭葉で増大する病変が発見されることとなります。そこで、2022年6月に女性は手術を受け、脳外科医が脳から生きてうごめく寄生虫を摘出することに成功しました。
研究チームは形態学的特徴に基づき、この線虫はヘビやヘビをエサとする哺乳類に寄生することで知られる「Ophidascaris robertsi(オフィダスカリス・ロペルティ)」であると特定します。その後、遺伝子検査により寄生虫がオフィダスカリス・ロペルティであることは改めて確認されました。患者の女性は、この寄生虫に感染したと報告された最初の人間であると考えられており、この寄生虫が哺乳類の脳に穴を掘っていることが発見されたのも初です。
オーストラリア国立大学ノカリーナ・ケネディ教授は、「これまで人への感染を引き起こすとは確認されていなかった微細な幼虫を特定しようとするのは、干し草の山から針を探そうとするようなものでした」と語っています。
なお、患者の女性はオフィダスカリス・ロペルティ摘出後、イベルメクチンと別の抗寄生虫薬であるアルベンダゾールを服用し、数カ月で肺と肝臓の病変は改善したそうです。
通常、オフィダスカリス・ロペルティの成虫はベビの食道や胃に生息し、ヘビの糞便中に卵を放出して、別の哺乳類へと感染を広げていくそうです。医師チームによると、女性は自宅の近くにある湖の周辺でニュージーランドホウレンソウを探していた際に、オフィダスカリス・ロペルティの卵がついたものを拾い、十分に洗わないか調理しないまま摂取してしまったのではないかと推測しています。なお、初期の治療で投与されたプレドニゾロンが、オフィダスカリス・ロペルティが中枢神経系へ侵入することを助けた可能性があると指摘しています。
ヘビの寄生虫が人間に寄生するという奇妙な事例を報告したケネディ教授は、外で採った食べ物をしっかり洗うことの重要性を強調しています。
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