サイエンス

「常温常圧の超伝導体」として科学界に旋風を巻き起こしたLK-99が超伝導体ではないことはどのように明らかになったのか?


韓国の研究チームが発表した「室温かつ常圧で超伝導状態になる物質・LK-99」については、発表当初から世界中の研究者から注目が集まり、複数の研究機関再現実験を実施しました。最終的に、LK-99は超伝導体ではないことが明らかになっているのですが、そのプロセスを科学誌のNatureが解説しています。

LK-99 isn’t a superconductor — how science sleuths solved the mystery
https://www.nature.com/articles/d41586-023-02585-7


事の発端となったのは、韓国・ソウルのスタートアップであるQuantum Energy Research Centreで働く研究者グループが発表した、「LK-99は少なくとも127度までの温度で超伝導体である」とする研究論文にあります。これまで超伝導体を生み出すには物質を極低温状態まで冷却する必要があると考えられてきましたが、LK-99は「常温常圧」で超伝導体状態になると研究チームは主張していました。

「室温かつ常圧で超電導状態になる物質」を開発したとする論文&ムービーが公開される - GIGAZINE


この研究論文は科学界において大きな関心を集めることとなり、多くの研究者がLK-99を再現するべく実験を行いました。そして、度重なる再現実験の結果から、多くの研究者たちが「LK-99は常温常圧の超伝導体ではない」と自信を持って発言するようになりつつあります。

最新の調査によると、銅・鉛・リン・酸素の化合物であるLK-99は、これが含む不純物である硫化銅により「電気抵抗率の急激な低下」と「磁石上での部分的な浮遊」を引き起こすことが示されています。

カリフォルニア大学デービス校の物性実験学者であるインナ・ヴィシック氏は、LK-99が超伝導体ではないという結論について「現時点では、かなり決定的な決着がついていると思います」と言及しました。


常温常圧の超伝導体としてLK-99を発表したQuantum Energy Research Centreの研究チームは、LK-99が持つ2つの特性「磁石の上で浮くこと」と「電気抵抗率の急激な低下」を根拠に、これが超伝導体であると主張しました。

しかし、北京大学や中国科学院を含む複数の研究機関が、この2つの現象について前述の通り「硫化銅により引き起こされる現象」と説明しています。また、アメリカとヨーロッパの研究者による別の研究では、実験的証拠と理論的証拠を組み合わせて、LK-99が超伝導体として実現不可能なものであることが実証されています。さらに、別の研究グループはLK-99のサンプルを合成し、この物質が超伝導体ではなく絶縁体であることを証明しました。

LK-99が超伝導体であるという主張を支持していた最も印象的な証拠は、韓国の研究チームが撮影した「LK-99がフワッと浮き上がる様子」を撮影した以下の動画です。

「超電導体の磁気浮上を室温かつ常圧で確認した」とされるムービー【LK-99】 - YouTube


研究チームは、LK-99はマイスナー効果により浮いていると説明していました。その後、LK-99が浮遊している未検証の動画が複数SNS上に出回ることとなります。しかし、LK-99を再現しようとした研究者たちは誰もこの浮遊を再現することに成功していません。

ハーバード大学の元物性研究者であるデリック・ヴァン・ゲネップ氏は、当該動画ではLK-99の端っこが磁石のようにくっついているように見えると言及。一方で、磁石の上を浮遊する本物の超伝導体は、空中でクルクル回転させることが可能で、逆さまに保持することさえできます。そのため、ゲネップ氏は「そもそもの超伝導体の動画で見られるような挙動が、LK-99の動画では見られません」と言及。


そのため、ゲネップ氏は「LK-99の特性は強磁性の結果である可能性が高い」と考えるようになったそうです。そこで、ゲネップ氏は圧縮したグラファイトの削りカスに鉄粉を接着したペレットを作成しました。このペレットは超伝導体ではありませんが、強磁性体であるためLK-99と非常によく似た挙動をするそうです。実際、北京大学の研究チームも、「LK-99は強磁性のため半浮遊している」と指摘しています。

以下はゲネップ氏が作成した「超伝導体ではなく強磁性体であるペレット」を磁石で半浮遊させた様子を撮影した動画。


LK-99を合成する反応では、純粋なLK-99である銅をドープしたリン酸鉛結晶だけでなく、銅と硫黄も多数生成されます。純粋なLK-99以外は不純物であり、これが超伝導体の2つの特性を再現する硫化銅になる模様。

Quantum Energy Research Centreの研究者グループは、LK-99の電気抵抗率が「0.02オーム・センチメートル」から「0.002オーム・センチメートル」へと急激に低下する温度があると主張していました。これについて、硫化銅の専門家であるイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の化学者プラシャント・ジェイン氏は、「これはCu2S(硫化第一銅)が相転移する温度です」と指摘しています。この温度以下になると、空気に触れたCu2Sの電気抵抗率は急激に低下するのですが、研究者グループはこの事実を見逃していたわけです。

なお、中国科学院の再現実験によると、LK-99を真空中で合成した場合のCu2S含有率が5%であるのに対して、空気中で合成した場合のCu2S含有率は70%となるそうです。Cu2S含有率5%のLK-99の場合、電気抵抗率は温度の変化と共に比較的滑らかに変化しますが、Cu2S含有率70%のLK-99の場合、電気抵抗率は112度付近で急激に低下することが確認されています。

また、LK-99から不純物を取り除くという研究も行われていますが、不純物が取り除かれたLK-99は超伝導体ではなく数百万オームの抵抗値を持つ絶縁体であることが明らかになっています。不純物を取り除いた純粋なLK-99はわずかな強磁性と反磁性を示すものの、部分的な浮遊を再現するには不十分だそうです。

これらを踏まえると、やはりLK-99で見られた超伝導体としての2つの特性「電気抵抗率の急激な低下」と「磁石上での部分的な浮遊」は、生成物に含まれる不純物・Cu2Sに起因するものであると考えられるわけです。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

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