サイエンス

常温常圧の「超電導」に関する論文の混乱と再現可能性について科学雑誌Scienceが再び解説


特定の物質を冷やすと電気抵抗が0になる「超電導」という現象について、「常温でも超電導を実現する」というこれまでの常識を覆す論文が2023年7月22日に提出されました。以前この論文について解説した科学雑誌Scienceのライターで有機化学者のデレク・ロウ氏が、再現可能性や論文発表時の混乱について解説しています。

A Room-Temperature Superconductor? New Developments | Science | AAAS
https://www.science.org/content/blog-post/room-temperature-superconductor-new-developments

2023年7月22日、通常であれば極低温の環境下でしか発生しないはずの超電導を常温常圧の環境下で再現したとする論文がプレプリントサーバーのarXivで公開されました。ロウ氏はこの論文を確認し、超電導になる化合物「LK-99」がどのようにして作られるかなどを詳しく解説しました。

常温常圧で「超電導」になる物質を合成したとする論文について科学雑誌Scienceが解説 - GIGAZINE

by Julien Bobroff

ロウ氏は新たに「目まぐるしく変化しているこの話題について、前回の記事の続きとして解説します」として記事を発表。これまでの常識を覆しかねない驚異的な主張について再び言及しました。

上記の論文が発表されて以降、さまざまな研究機関が超電導の再現に取り組んでいますが、一部では「ことごとく失敗した」などの報告が上がっており、必ずしも常に再現が可能であるものではないことがわかっています。一方で韓国の瀋陽国立材料科学研究所(SYNL)やアメリカのローレンス・バークレー国立研究所からは「再現に成功した」と報告されており、今後の調査の進展が期待されています。

8月1日時点では、中国の華中科技大学から、LK-99がマイスナー効果によって磁石の上に浮遊し、常温超電導の可能性を示しているとの報告がありますが、この報告に伴い発表されたビデオの真偽はまだ確認されていません。SYNLとローレンス・バークレー国立研究所により提出された2つのプレプリントは、密度汎関数理論に基づいてLK-99が優れた超電導体である可能性を示唆しています。どちらの研究も超電導に重要な役割を果たすフェルミ準位の電子構造に焦点を当てていますが、LK-99の挙動にばらつきがあるのも確認されているとのこと。

夢の常温常圧超電導体「LK-99」の存在を支持する研究結果が相次いで発表される、再現したLK-99が超電導物質だと示唆する動画も公開 - GIGAZINE


これについてロウ氏は「元の著者でさえ試料が多結晶で不均一であったと述べているので、論文で報告された調製法が最適化されたものであるとは期待できません。このことは再現がスムーズにいかない可能性があることを意味しますが、同時に、他の人が試したときに成功の可能性が高まることも意味しています」と指摘し、発表間もない段階では変数が未知数であり、良い結果も悪い結果も出てくるだろうとの見方を示しました。

もう一つの複雑な問題として、プレプリントの著者間に明らかな内紛があることをロウ氏は指摘しています。今回の論文は「2つ」提出されており、1つは韓国の研究機関であるQuantum Energy Research Centreのイ・スクベ氏を筆頭に、キム・ジフン氏とクォン・ヨンワン氏が名を連ねたもの、もう1つは同じくイ・スクベ氏を筆頭に、キム・ジフン氏、キム・ヒョンタク氏、イム・ソンヨン氏、アン・スミン氏、アウ・グンホ氏が名を連ねたものとなっています。両者似た内容の論文が掲載されていることについて、ロウ氏は「著者の1人が他の著者と相談せずに提出したためと思われる」と推測した上で、「正直に言って、多少の興奮や混乱については誰を責めることもできません」と擁護しました。


締めの言葉としてロウ氏は「現時点では、私は慎重に楽観的な見方をしています。SYNLとローレンス・バークレーの計算は非常に前向きな進展であり、この件を『何の説明もできない』という冷ややかな結論から脱却させるものです。私はより多くの再現データを待っていますが、今回の件はこれまで世界が見てきた常温常圧超電導現象の中で最も信ぴょう性が高いものであり、今後数日、数週間は非常に興味深いものになるでしょう」と述べました。

・つづき
常温常圧超伝導体「LK-99」再現実験について東南大学のチームがマイナス163度で「抵抗ゼロ」を観測したと発表 - GIGAZINE

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「室温かつ常圧で超電導状態になる物質」を開発したとする論文&ムービーが公開される - GIGAZINE

「常温常圧で超電導を実現する」という夢の論文の真偽はいかに? - GIGAZINE

常温常圧で「超電導」になる物質を合成したとする論文について科学雑誌Scienceが解説 - GIGAZINE

「室温かつ常圧で超電導が可能になる」技術でどのようなことが実現可能になるかについての議論が白熱中 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1p_kr

You can read the machine translated English article The scientific journal Science re-explai….