サイエンス

超伝導とは何なのか?そして常温常圧で超伝導を実現するという「LK-99」とは何なのか&再現実験の結果まとめ


2023年7月に韓国の研究チームが「LK-99」という物質で、常温・常圧下で超伝導に転移したのを確認したと発表しました。この結果が本当であればさまざまなエネルギー問題を解決する希望となりますが、何かの間違いだったりデータのねつ造だったりする可能性も十分あり得るため、世界各国の専門家が検証を行っています。

LK-99: The Live Online Race for a Room-Temperature Superconductor (Summary) – Eiri Sanada
https://eirifu.wordpress.com/2023/07/30/lk-99-superconductor-summary/


◆超伝導とは?
超伝導とは簡単に言ってしまえば、物質を低温まで冷やすと電気抵抗がゼロになる状態のことで、この状態を起こすような物質を超伝導体と呼びます。なお、技術の世界では「超電導」と書かれることもあり、日本産業規格(JIS)では「超電導」表記が採用されていますが、学術の世界では「超伝導」と書かれるため本稿ではこの表記を用います。

超伝導は、オランダの物理学者であるカマリン・オンネスの実験によって1911年に発見されました。1908年にオンネスはヘリウムの液化に世界で初めて成功しました。ここから、人類は絶対零度における物性研究が可能になりました。


一般的に、金属の電気抵抗は熱すると大きくなり、冷やすと小さくなります。このことから、オンネスは「金属を極限まで冷やせば電気抵抗はゼロになる」と考え、液化ヘリウムを用いて水銀の温度を極限まで下げていったところ、4.2K(マイナス約268.8℃)で電気抵抗が突然ゼロになることが判明。これが世界で初めて超伝導を確認した瞬間です。

◆なぜ超伝導が起こるのか?
発見から100年以上経ってもなお、超伝導の原理についてはあまりよくわかっていません。ただし、なぜ超伝導が起こるのかを説明する理論は、1957年にジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・シュリーファーの3人によって提唱されており、この理論は3人の名前の頭文字を取って「BCS理論」と呼ばれています。

金属は電気を通す導電性の物質で、金属原子の持つ電子が「自由電子」となって動き回ることで導電性を持ちます。しかし、負の電荷を持つ自由電子が、金属原子の並ぶ結晶格子の間を動き回る時、正の電荷を持つ結晶格子に引かれてしまいます。金属原子の結晶格子が自由電子の振る舞いを制限してしまうため、金属には少なからず電気抵抗が生じます。

BCS理論は、電子が「クーパー対」と呼ばれるペアを組むことで、電子同士の相互作用で電気抵抗がゼロになるという考え方を示しました。片方の電子が結晶格子に引かれてエネルギーを奪われても、もう片方の電子が逆に結晶格子からエネルギーを奪う、というモデルです。クーパー対で見ると、電子が結晶格子に奪われるエネルギーはプラスマイナスでゼロになるため、電気抵抗がゼロになるという理屈です。つまり、超伝導とは「金属内の電子がクーパー対を構成した状態」ということもできます。


BCS理論を使えば、30~40K(マイナス243℃~マイナス203℃)で超伝導現象が起こることが説明できました。さらに、BCS理論によって超伝導に転移する温度(臨界温度)や比熱を理論的に算出することが可能になりました。この業績が評価されて、バーディーン、クーパー、シュリーファーの3人は1972年にノーベル物理学賞を受賞しています。しかし、銅酸化物が93K(約-180℃)という比較的高温で超伝導状態になることが1987年に発見され、BCS理論だけでは説明のつかない超伝導体が存在することがわかってきました。

◆超伝導の特徴とは?
「電気抵抗がゼロになる」以外に超伝導体がもつ大きな特徴が、超伝導体内に磁場が侵入しなくなる「マイスナー効果」です。超伝導体はマイスナー効果によって磁場を排除してしまうので、磁石を近づけると反発して離れようとします。そして、一定以上の強さの磁場をかけると、超伝導状態ではなくなり、磁場が侵入してしまいます。

限界を超えた磁場をかけた時、突然磁場が侵入して完全に超伝導でなくなってしまうものを第1種超伝導体、徐々に磁場が侵入していくものを第2種超伝導体と呼びます。この第2種超伝導体を強い磁石の上に置くと、基本的に磁場を排除するのですが、部分的に磁場が侵入します。いわば超伝導体に磁力線の串が数本刺さったような状態になり、磁場の中で固定されて動けなくなってしまうため、この現象を「ピン止め効果」と呼びます。


ピン止め効果によって、超伝導体と磁石の位置関係は固定され、常に同じ高さで浮上するため、磁石の上から外れることはありません。これを応用したものが、超伝導体によるリニアモーターカーの実験で、以下のムービーから見ることができます。

超伝導のピン止め効果実験 - YouTube


◆超伝導が可能になると何ができるのか?
超伝導自体はすでに実用化されており、病院の診察に使われるMRIがその1つです。超伝導体は電気抵抗がゼロなので、一度流れた電流は損失されずに永久に流れ続けます。MRIではニオブチタンと呼ばれる合金で作られたコイルが液化ヘリウムによって冷やされ、電源を切ってもなお強力な電磁石であり続けるというわけです。


また、電気抵抗がゼロになるので、送電用のケーブルを超伝導体で作ればロスを大幅に軽減できます。また、量子コンピューターにも超伝導を応用することができ、実際に日本では超伝導を利用した量子コンピューターの開発が盛んに行われています。

産総研:量子コンピュータを利用できる「量子計算クラウドサービス」開始 マイナス国産超伝導量子コンピュータ初号機の公開マイナス
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20230324.html

ただし、いずれのシステムでも超伝導を維持するために極低温環境を保つ必要があり、そのためには液化ヘリウムや液化水素を使用しなければならないため、コストがとんでもなくかかってしまうというのが難点です。

◆「LK-99」とは?
LK-99は1999年に初めて合成された物質で、発見者であり最初のプレプリントの発表者でもあるSukbae LeeとJihoon Kimの名前を取って名付けられています。

超伝導は低温にすることで物質の相転移が起こり、電気抵抗が0になることです。LK-99が大きく話題になっているのは、従来よりもはるかに高い温度かつ常圧下で超伝導に相転移したと報告されているからです。基本的に常圧下での超伝導転移温度は極低温となっており、常圧下では銅酸化物の1種で133K(マイナス約140℃)が最高値。それ以上の温度だと、高圧下の実験でのみ超伝導転移が確認されています。


しかし、最初にプレプリントサーバーのarXivに公開された論文では、LK-99が水の沸点を超える400K(約127℃)で超伝導転移を実現したと主張されました。LK-99は「ラナルカイト(Pb2(SO4)O)とリン化銅(Cu3P)を細かく粉砕して混合し、真空チャンバー内で925℃で1日かけて焼成する」ことで合成できるとのこと。材料さえそろえれば家庭でも合成が容易という点も、世間の注目を集めたポイントです。

常温常圧超伝導は、「極低温環境の維持」という高コストの条件をクリアできるため、人類にとって非常に有益なもので、文明にとって大きなブレイクスルーになることは間違いありません。しかし、今まで確認されたことがなく、発表された論文は数あれど、いずれもミスやデータのねつ造で撤回されてきました。そのため、LK-99については世界中の研究者がプレプリントの内容から追試を行っています。

超伝導状態になったLK-99を永久磁石の上に置くところが以下のムービーで見られます。ただし、ムービー内のLK-99は完全に磁石の上を浮遊しているのではなく、一部分が沈んでしまっているので、磁石と反発するマイスナー効果が確認できないのではないか?というのも、一部の専門家から疑問点として指摘されています。

「超電導体の磁気浮上を室温かつ常圧で確認した」とされるムービー【LK-99】 - YouTube


記事作成時点で、大学や研究組織による追試・調査の状況は以下の通り。

グループステータス結果概要論文など
量子エネルギー研究センター(韓国)
電子通信研究院ICT基礎研究室(韓国)
ウィリアム&メアリー大学物理学科(アメリカ)
漢陽大学(韓国)
韓国・アメリカなしなし最初に発表された論文arXiv
アルゴンヌ国立研究所アメリカ「彼らは超伝導についてあまり知識がなく、一部のデータの提示方法は疑わしいものがあります」と述べ、懐疑的な姿勢。Science
南京大学物理学部中国発表直後の流れを要約したもの。ScienceNet.cn
華中科技大学中国追試中部分的に成功→成功ソースはWeChatのスクリーンショットのみで、Bilibiliにも映像がアップされている。

Bilibili


Twitter

科学産業研究評議会
インド国立物理研究所
インド追試中

1回目:失敗


2回目:失敗

インド国立物理研究所のVPS Awana博士がFacebookに結果を投稿。
 

Facebook(1回目)


Facebook(2回目)


Arxiv

北京大学 材料科学工学科中国結果発表済み失敗LK-99は半導体のように機能したものの、超伝導状態にはならず、マイスナー効果による浮遊も見られなかった。Arxiv
ローレンス・バークレー国立研究所アメリカシミュレーション鉛と銅がどのように相互作用して超伝導状態になるのかをシミュレーションしている。arXiv
成均館大学
高麗大学
ソウル大学
韓国追試中?韓国超伝導極低温学会によって特別検証委員会が設置される。ソウル大学のキム・チャンヨン教授が責任者を務め、3大学でそれぞれ追試をスタート。プレスリリース
東南大学 超伝導材料研究所中国 失敗

1回目:論文とX線データは一致するが、超伝導状態の兆候は見られなかった。


2回目:超伝導と思われる抵抗低下が見られたものの、電気抵抗は0にならなかった。


3回目:110K(約-163℃)で超伝導が観測された。

Bilibili(1回目)


Bilibili(2回目)


Arxiv(3回目)


個人で検証しているものについては以下。

個人経歴状態結果概要論文、結果報告など
Andrew McCalipアメリカエンジニアLK-99の焼成中まだTwitterで進捗状況を実況し、炉を使ってLK-99を焼成する様子をTwitchでライブ配信。ただし、アメリカでは赤リンを個人が新規に入手することができないため、知り合いがリン化銅を合成してくれるのを待っているとのこと。

Twitter


Twitter


Twitter


Twitch

半导体与物理中国追試中成功?LK-99の合成手順を定期的に投稿。「異常な特性を持つ粒子が確認できた」と報告。

Zhihu

胡豆中国不明、実際には追試をしていない可能性が高い。リン化銅の合成中失敗LK-99の合成手順を画像付きで定期的に投稿。

Zhihu

关山口男子技师中国華中科技大学に所属していることが確認された追試終了失敗 

Bilibili


Twitter

Iris Alexandraロシアロシア科学アカデミー
遺伝子生物学研究所次席研究員
追試中部分的に成功プレプリントでの合成方法を批判し、より高速に合成できる方法を提唱。「浮遊特性を持つ物質の粒子を生成した」と報告。

Twitter

科研农民工中国不明成功?「異常な特性を持つ物質を精製することに成功」と報告Bilibili
zoubairフランスコレージュ・ド・フランス、固体化学・エネルギー研究所 博士課程追試中失敗研究室の一員として取り組んでいるそうですが、公式な研究ではないとのこと。1回目と2回目はともに失敗。ただし、2回目ではX線データでいくつかの異常が特性が示されたとのこと。

Twitter(1回目)


Twitter(2回目)

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in サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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