サイエンス

高温超伝導物質の奇妙な振る舞いは「量子もつれによって生み出されている可能性がある」と研究者が主張

by geralt

非常に低い温度に冷却した時に電気抵抗が急激にゼロになる超伝導物質は1911年に発見され、近年ではさまざまな場面での実用化が進んでいます。そんな超伝導物質について調べている研究者が、「超伝導物質の奇妙な振る舞いが量子もつれによって生み出されている可能性がある」と主張しています。

Incoherent strange metal sharply bounded by a critical doping in Bi2212 | Science
https://science.sciencemag.org/content/366/6469/1099

Superconductivity theory under attack
https://phys.org/news/2019-11-superconductivity-theory.html

超伝導物質の発見以来、超伝導状態までの冷却には-269℃という極低温で存在する液体ヘリウムを使う必要がありました。ところが、1980年代になって高い転移温度で超伝導を示す銅酸化物超伝導体などの高温超伝導物質が見つかって以来、従来より広い範囲での応用が期待されています。

超伝導の仕組みは、1957年にイリノイ大学の研究者らが解明したBCS理論によって説明されています。BCS理論に基づくと、超伝導状態を実現するためには電子がペアとなり、最低エネルギー状態で凝縮(ボース=アインシュタイン凝縮)する必要があるとのこと。この状態は超伝導物質が転移温度以下に冷却された場合に発生し、電子が妨げられることなく結晶内を通過できるようになります。

by FelixMittermeier

しかし、高温超伝導物質は転移温度を超えても奇妙な振る舞いを見せることがあるとスタンフォード大学国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)などの研究チームは指摘。転移温度をわずかに超えた温度において、電子は通常の金属と同様に大きな独立した粒子として振る舞わず、まるで集団のように振る舞う状態に高温超伝導物質が遷移するケースがあるとのこと。

そこで研究チームは角度分解光電子分光(ARPES)を用い、ビスマス系超伝導体(Bi2212)を観察する実験を行いました。ARPESではサンプルに軟X線を照射することで、電子の方向や速度、散乱過程などについて調べることが可能です。

研究チームによると、Bi2212に添加する不純物の割合が19~20%だった場合、転移温度をわずかに超えた温度で通常の金属から奇妙な振る舞いを見せる金属への遷移が確認されたとのこと。この遷移において、電子のエネルギー分布が急激に変化する「不連続な遷移」が起きていることが示されましたが、温度が超伝導の起きる転移温度以下になった途端、遷移の不連続性がなくなって特性の変化が連続的になったそうです。


研究の共著者であるライデン大学Jan Zaanen教授は、「一般的な物理学の原則に従えば、高温での不連続な振る舞いは低温状態でも発生します。これが起こらないという事実は、これまでの計算と矛盾するものです」と指摘。Zaanen氏は今回の結果を受けて、奇妙な金属の振る舞いが量子もつれの結果として発生していると主張しています。

高温超伝導物質の奇妙な振る舞いが量子もつれによってもたらされるという仮説から、Zaanen氏はこの奇妙な振る舞いを計算するには量子コンピューターを使うしかないと考えています。「30年後の世界において、高温超伝導物質が量子もつれの結果によって支配される、根本的に新しい形態の物質であると示される証拠が集まっています」と、Zaanen氏は述べました。

by geralt

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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