サイエンス

AIを用いた研究でアルツハイマー病の原因解明へ一歩前進、新たな治療候補の特定を実現


アルツハイマー病は65歳以上の約9人に1人がかかる神経疾患ですが、その原因は十分に解明しておらず、また一時的に症状を改善する方法はあるものの進行を止めたり完治させたりする治療法は見つかっていません。カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者たちがAI(人工知能)を用いて実施した研究では、アルツハイマー病の原因解明と医療の改善に重要な進歩があったことが報告されました。

Transcriptional regulation by PHGDH drives amyloid pathology in Alzheimer’s disease: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00397-6

AI Helps Unravel a Cause of Alzheimer’s Disease and Identify a Therapeutic Candidate
https://today.ucsd.edu/story/ai-helps-unravel-a-cause-of-alzheimers-disease-and-identify-a-therapeutic-candidate


アルツハイマー病は特定の遺伝子の変異が引き起こしている可能性が考えられていますが、その特定の遺伝子はアルツハイマー病患者全体のごく一部にしか見られていませんでした。そこで研究チームは、2020年の研究でアルツハイマー病の早期発見に役立つとして発見されていた血液バイオマーカーの「ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PHGDH)」を詳しく調べたところ、PHGDHの発現レベルがアルツハイマー病における脳の変化と直接相関していることを発見しました。研究によると、PHGDHによって産生されるタンパク質とリボ核酸(RNA)のレベルが高いほど、アルツハイマー病の進行度が高かったとのこと。

研究チームはさらに、マウスとヒトの脳のオルガノイドを用いて、PHGDHとアルツハイマー病の相関関係をより深く検証しています。2025年4月に科学学術雑誌のCellで発表された論文では、AIを用いることでPHGDHの3次元構造を可視化し、PHGDHがアルツハイマー病の特徴においてどのような調節的役割を果たしているかを調べています。

結果として、AIが可視化した構造から、PHGDHのサブ構造が「DNAとくっつくタンパク質」(転写因子)に見られる特徴的な形と類似していることが判明しました。この類似性は構造のみに存在し、タンパク質配列には類似性がなかったため、AIを駆使して3次元構造を非常に正確に構築することが重要な意味を持っていたと論文の筆頭著者であるSheng Zhong氏は述べています。

研究チームはまた、PHGDHが2つの重要な標的遺伝子を活性化することを実証しました。この活性化により、遺伝子の繊細なバランスが崩れ、さまざまな問題を引き起こして最終的にはアルツハイマー病の初期段階へと繋がります。要するに、PHGDHは従来考えられてきた酵素の機能とは独立して、アルツハイマー病を引き起こすこれまで知られていなかった役割を担っているというわけです。


さらに、どのようにアルツハイマー病を治療できるかという点にも、PHGDHの構造解析が貢献する可能性があります。現在の多くの治療法では、脳内のβ-アミロイドと呼ばれる粘着性タンパク質の異常値を治療することに重点を置いていますが、いくつかの研究では、その段階に達した時点で治療は手遅れであるため、治療法としては効果がない可能性が示唆されています。しかし、今回の発見では早い段階でアルツハイマー病の発症プロセスを検知できるため、β-アミロイドが蓄積し始める初期段階で対処できます。

研究チームは再度AIを活用することで3次元可視化とモデリングをした結果、PHGDHの酵素活性を阻害する効果があると見られている「NCT-503」がPHGDHのDNA結合サブ構造にどのようにしてアクセスするのかを確認しました。研究では、アルツハイマー病の2種類のマウスモデルでNCT-503を試験したところ、アルツハイマー病の進行が著しく緩和されたことを示しています。

論文の筆頭著者であるSheng Zhong氏は「今、有効性が実証された治療候補があり、人に使うための臨床試験へと発展させる可能性を秘めています。さらに、これまでとはまったく違うタイプの小さな分子も将来の治療薬開発に活用できる可能性を、研究では示しています」と発見の意義と今後の研究について語りました。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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