サイエンス

アルツハイマー病対策に「筋トレ」が有効かもしれないという研究結果


筋トレは心身にさまざまな好影響をもたらすことが知られており、単に筋肉を大きくするだけでなくダイエットうつ病の改善にも役立つということが指摘されています。ブラジルの研究チームが行った実験では、「筋力トレーニングがアルツハイマー病の発症を遅らせる上で役に立つ可能性がある」という結果が示されました。

Frontiers | Neuroprotective effects of resistance physical exercise on the APP/PS1 mouse model of Alzheimer’s disease
https://doi.org/10.3389/fnins.2023.1132825


Study suggests resistance training can prevent or delay Alzheimer’s disease | AGÊNCIA FAPESP
https://agencia.fapesp.br/study-suggests-resistance-training-can-prevent-or-delay-alzheimers-disease/41795/

One Type of Exercise Could Alleviate And Even Delay Alzheimer's Symptoms : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/one-type-of-exercise-could-alleviate-and-even-delay-alzheimers-symptoms

以前の研究から、身体運動が脳神経の保護や抗炎症反応を引き起こし、アルツハイマー病の改善に有益であることが知られてきました。ところが、その多くは有酸素運動に焦点を当てたものであり、アルツハイマー病の当事者となりやすい高齢者は長時間の有酸素運動を行うのが難しいケースがあるとのこと。


そこでブラジルのサンパウロ連邦大学サンパウロ大学の研究チームは、筋肉に抵抗をかける動作を繰り返す「レジスタンス運動」の神経保護効果について研究を行いました。レジスタンス運動の例としてはスクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操といったものが挙げられ、強度が軽いものであれば高齢者でも行うことが可能です。

また、世界保健機関(WHO)は高齢者のケガを防ぐために重要な平衡感覚の訓練や姿勢の改善、転倒を防ぐための最良の選択肢としてレジスタンス運動を推奨しています。レジスタンス運動は加齢と共に低下しやすい骨密度や筋肉量の増加、サルコペニア(筋萎縮)の予防などにも有効とされており、高齢者ができる範囲のレジスタンス運動に取り組むことには多くのメリットがあります。


研究チームは、アルツハイマー病患者に特徴的なアミロイドβと呼ばれるタンパク質を蓄積させる遺伝子変異を持つマウスを、「レジスタンス運動に4週間取り組むグループ」と「レジスタンス運動を行わないグループ」に分けました。レジスタンス運動に取り組むグループでは、フィットネスクラブで人間が行うレジスタンス運動を模倣するため、重りを付けた状態で傾斜を付けたはしごを登るトレーニングを行わせたとのこと。

そしてプログラム終盤には、狭い円筒形の筒の中にマウスを入れてストレスを与え、マウスの歩行傾向から不安レベルを測定するフィールドテストを実施しました。その結果、遺伝子変異があるもののレジスタンス運動を行ったマウスは、レジスタンス運動を行わなかったマウスと比較して、ストレスを受けた時の不安レベルが低いことが示されました。落ち着きのない歩行はアルツハイマー病の初期症状の1つであり、この結果はレジスタンス運動を行ったことがマウスのアルツハイマー病を予防または緩和した可能性を示唆しています。

さらに研究チームは、マウスから採取した血液サンプルの分析も行いました。その結果、ストレスホルモンの一種であり人間のコルチゾールにあたるコルチコステロンの量が、レジスタンス運動を行ったマウスでは遺伝子変異のないマウスと同程度に抑えられていることが判明しました。

以下のグラフは、「CTRL」は遺伝子変異のないマウスを、「APP/PS1」は遺伝子変異がありレジスタンス運動を行わなかったマウスを、「APP/PS1 RE」は遺伝子変異がありレジスタンス運動を行ったマウスを表しており、縦軸が血中のコルチコステロン濃度を示しています。レジスタンス運動を行った遺伝子変異のあるマウスは、遺伝子変異のないマウスと同程度までストレスホルモンが少ないことがわかります。


過去の研究では「日常的にストレスを感じて多量のコルチゾールが分泌されるとアルツハイマー病のリスクが高まる」という結果が示されており、レジスタンス運動を行ったマウスの血液中にストレスホルモンが少ないということは、レジスタンス運動がアルツハイマー病のリスクを軽減させる可能性を示唆するとのこと。

また、マウスの脳組織を分析した結果、遺伝子変異を持つマウスの海馬におけるアミロイドβの蓄積量は、レジスタンス運動を行ったマウスの方が運動しなかったマウスより少ないこともわかりました。

今回の研究はあくまで人間ではなくマウスを対象にしたものだという点に注意が必要であり、アミロイドβがアルツハイマー病において果たしている役割についても明確になっていないため、研究結果を受けてただちに「レジスタンス運動はアルツハイマー病を予防する」と断言することはできません。

それでも、論文の筆頭著者であるサンパウロ連邦大学のエンリケ・コレイア・カンポス氏は、「今回の結果は、身体活動がアルツハイマー病の臨床症状を引き起こす神経病理学的変化を逆転させる可能性があることを裏付けています」と述べました。

なお、別の研究チームからは「筋肉増強のサプリメント」を服用することで、アルツハイマー病の進行を食い止められる可能性があるという研究結果も報告されています。

筋肉増強用のサプリメントを服用することでアルツハイマー病の進行を食い止められる可能性 - GIGAZINE

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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