サイエンス

運動はアルツハイマー病患者の脳を改善する可能性がある

by Snapwire

脳が萎縮してしまうアルツハイマー病はアルツハイマー型の認知症を引き起こし、認知機能の低下や人格の変化といった症状をもたらします。そんなアルツハイマー病患者の治療について、「運動することで患者の脳内をきれいにし、アルツハイマー病を改善できるかもしれない」という研究結果が発表されました。

Combined adult neurogenesis and BDNF mimic exercise effects on cognition in an Alzheimer’s mouse model | Science
http://science.sciencemag.org/content/361/6406/eaan8821

How Exercise Might "Clean" the Alzheimer's Brain - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/how-exercise-might-clean-the-alzheimers-brain1/

アルツハイマー病にかかった脳内は、さまざまな神経細胞のゴミがたまってしまった「過酷な環境」だといわれます。脳内にタンパク質の一種であるアミロイドβペプチドが蓄積した「アミロイド斑」が形成されてしまったり、神経線維がもつれていたりしており、神経細胞のつながりが断絶してしまうことで認知機能の低下や記憶の喪失が発生するとみられています。

多くの研究者たちは毒性を持つアミロイド斑が増えてしまうことがアルツハイマー病の原因なのではないかと考え、さまざまな実験を繰り返してきました。ところが、アミロイド斑に焦点を当てた研究はこれまでに有効な治療法を生み出せておらず、アミロイド斑がアルツハイマー病の原因だとするアミロイド仮説を見直す動きも出てきているとのこと。

その一方で、「エクササイズなどの運動がアルツハイマー病の予防に効果的」というも提示されていました。運動は脳内に生化学的な変化をもたらし、脳の環境を豊かにして神経細胞の健康状態を改善するとのこと。また、運動によってアルツハイマー病に関わる海馬の接続や細胞の成長を促進するなど、成人の海馬における神経発生を回復させるともいわれています。

by NIH Image Gallery

しかし、これまでのところ運動がどのような影響をアルツハイマーの脳に与えるのか、どのようなアルツハイマー病の治療的効果を持つのかは、正確には判明していませんでした。そこで、ハーバード大学医学大学院で准教授を務めるSe Hoon Choi博士の研究チームは、運動によって脳内環境を改善してアルツハイマー病の治療に役立てることが可能なのかをマウスを対象に実験しました。

研究チームはアルツハイマーを持ったマウスについて、運動をさせるグループと多くの時間を座ったままにさせるグループに分け、アルツハイマーの症状を比較しました。その結果、運動をさせたマウスには大幅な記憶の改善がみられたとのこと。運動をさせたマウスでは海馬における神経発生の改善が確認された他、脳由来神経栄養因子(BDNF)という神経細胞の成長やシナプスの機能促進などに関わるタンパク質の増加が確認されました。

マウスの記憶を回復させることは、以前から薬物や遺伝的な治療法によって海馬の神経発生を促し、BDNFレベルを増加させることで可能でした。研究チームは運動によって薬物などによる治療と同様の効果を脳内に引き起こし、アルツハイマー病のマウスの症状を改善させることができる可能性を示しました。

by Yu-Chan Chen

今回の研究結果はアミロイド仮説にもとづくものではなく、アミロイド斑が健康な脳からも見つかっている事実とも合致するとのこと。一方で、マウスによるアルツハイマー病の研究結果は即座に人間に適用できることが少なく、マウスについて発見された多くの治療法は人間に対して使用できないことも知られています。

将来的な研究としては、まず人間に対しても何らかの方法でBDNFレベルを増加させ、脳をクリーンにすることがアルツハイマー病の治療に役立つことを実証する必要があります。マウスに対しては直接脳内にBDNFを注入する方法が使用されていますが、人間に対して同様の方法を使うことは現実的ではないため、別の方法を考える必要があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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