サイエンス

アルツハイマー病の診断はなぜ難しいのか?


2017年秋、Microsoftの創業者として有名なビル・ゲイツ氏がアルツハイマー病への投資を発表しました。2018年になってゲイツ氏は自身のブログ上で「アルツハイマー病の診断がなぜ難しく、どうすればよりよい診断ができるようになるのか?」というエントリーを投稿しており、この中でアルツハイマー病が抱える課題とさらなる投資について語っています。

Why diagnosing Alzheimer’s today is so difficult—and how we can do better | Bill Gates
https://www.gatesnotes.com/Health/A-better-way-of-diagnosing-Alzheimers

ゲイツ氏がアルツハイマー病の研究に投資した理由のひとつは、自身の父親がアルツハイマー病を患ったことにあります。投資を発表するまで父親がアルツハイマー病を患っていることを伏せていたゲイツ氏ですが、公表に伴いサポートコミュニティから驚くほどの支援が得られたとのこと。投資を始める前からアルツハイマー病の研究が困難なものになることをある程度予測していたというゲイツ氏ですが、「アルツハイマー病コミュニティ全体から素晴らしい反応が得られる」ということは予想だにしていなかったそうで、ブログではコミュニティへの感謝の言葉をつづっています。

アルツハイマー病の研究について、ゲイツ氏は「人間の生活を劇的に改善することができるフロンティア」「いくつかの重要な分野で進歩することができれば、アルツハイマー病の経過を大きく変えることができる」と楽観的な言葉を並べています。そして、ゲイツ氏は「我々が今できる最大のことは、信頼性が高く、手ごろな価格で行える診断方法を開発すること」と語っており、既存の診断方法よりも信頼性が高く、手ごろな価格で行える方法の確立が重要であるとしています。

by Finn Hackshaw

既存のアルツハイマー病の診断方法は、認知テストから始まります。テストがうまくクリアできなかったとしてもすぐにアルツハイマーの診断につながるわけではなく、その前に脳卒中や栄養不足など、記憶喪失につながる原因をすべて除外する必要があります。それでも認知能力に問題があると判断された場合、ようやく脊椎穿刺PET検査が行われ、ここでようやくアルツハイマー病かどうかが診断されることとなります。これらの検査はかなり正確なものですが、疾患を確実に診断するための唯一の方法は死後の剖検のみであり、「既存の診断方法は理想的なプロセスとはいえない」とゲイツ氏は述べています。

既存のプロセスが抱える問題点について、ゲイツ氏は「高価で侵襲的なものである点」を挙げています。アルツハイマー病の診断はアメリカのほとんどの保険が適用外となってしまう点も問題で、患者はしばしばポケットマネーで何十万円もの医療費を支払う必要性に迫られるとのこと。それでいて、脊椎穿刺は恐ろしく不快なものであり、PET検査は40分間静止しなければならず、アルツハイマー病患者には難しいものであることが指摘されています。

既存の診断プロセスが抱えるもうひとつの問題点として、ゲイツ氏は「認知機能の低下がみられるまで患者が診断を受けない」という点を挙げています。アルツハイマー病について理解を深めれば深めるほど、それまで知られていたよりも早くアルツハイマー病の症状がスタートしていることが明らかになったとゲイツ氏。研究によれば、アルツハイマー病の症状が現れ始める前に、既に症状が脳を損傷し始めていることが示唆されており、「このタイミングこそ最も効果的な治療開始のタイミングであるはず」とゲイツ氏は主張しています。

by Daniel Hjalmarsson

既存の診断方法は時代遅れなものであるとし、病気の進行を遅らせるより先に、単純な血液検査や目の検査などでアルツハイマー病を診断する方法を確立すべき、とゲイツ氏は訴えています。

このためにゲイツ氏はアルツハイマー治療薬研究基金(ADDF)と協力し、より素早くアルツハイマー病を診断するための「Diagnostics Accelerator」(診断加速プログラム)をスタートさせることを発表しています。このプロジェクトはアルツハイマー病の早期診断と、より良い診断のための大胆かつ新しいアイデアを求めるものであり、ゲイツ氏は3年間で3000万ドル(約34億円)を投資することも明かしています。

ゲイツ氏は「Diagnostics Acceleratorはベンチャー慈善事業であり、ほとんどのファンドとは異なります」と説明しています。政府や慈善団体からの投資は新しいアイデアや最先端の研究を生み出すために素晴らしいものとなりますが、終わりに誰も利益をあげることができないため、常に有用な製品を作ることができません。対して、ベンチャーキャピタルは患者に届くテストを開発する可能性が高いものの、財務モデル的に投資家に大きな利益をもたらすようなプロジェクトが好まれます。ゲイツ氏らのDiagnostics Acceleratorは両者の特徴を備えた「ベンチャー慈善事業」であり、実際の患者のための製品を最終目標を持って作ることが可能で、さらに大胆かつリスクのあるアプローチで研究にインセンティブを与えることもできるとのこと。

ゲイツ氏はDiagnostics Acceleratorへの投資が学術研究による信頼性が高く、手ごろな価格で行えるアルツハイマー病の診断方法確立の橋渡しになることを望んでいる、としています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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