「オンライン会議疲れ」のメカニズムとその克服方法とは?
在宅で仕事をする機会が増えたことにより、ZoomやMicrosoft Teamsといったビデオ通話アプリやサービスが使用されるケースが多くなりました。会社に行くことなく自宅で仕事ができるのは楽なようですが、一方で「Zoom疲れ」という言葉が世界中で用いられるほど、ビデオ通話によるオンライン会議が負担になるという認識も広まっています。そのような「オンライン会議疲れ」とはどのような原因によるもので、どのように克服して改善していけるのか、主にエンジニア向けの支援を目的としたブログであるLeadership Gardenのオクロノス氏が解説しています。
Zoom Fatigue Unpacked: Understanding and Overcoming Virtual Exhaustion - Leadership Garden
https://leadership.garden/zoom-fatigue/
ビデオ通話ツールを用いることで発生する「オンライン会議疲れ」について、アメリカのビジネス情報サイト・Axiosでライターを務めるスコット・ローゼンバーグ氏は「プライベートでも仕事でも生活のあらゆる場面でZoomを使用している」「ビデオ通話のわずかな遅延や視線が合わない不安にストレスがたまる」「そもそもCOVID-19のパンデミックという状況に人々が疲れている」という点が原因だと指摘しました。また、オーストラリアのボンド大学で組織行動学を研究するリビー・サンダー准教授は、「オンライン会議疲れ」はストレスが主な原因として、「言葉以外のコミュニケーションが減少する」「ビデオに映したくないものへ配慮が必要」「会議室へ移動する間に思考や気持ちを切り替えるようなことができない」「ディスプレイに映った自分自身の顔を見続けるのがストレス」「会話のリズムが対面での会話と大きく異なる」という点を挙げています。
オンライン会議でストレスがたまる5つの原因 - GIGAZINE
また、スタンフォード大学コミュニケーション学部のジェレミー・バイレンソン教授は、オンライン会議疲れの主要な原因を「バストアップの映像により近距離からの視線がある」「カメラに捉えてもらうための動きやマイクに拾ってもらうために声を大きくするなど、認知的な行動への負荷が高まる」「自分の顔を見続けることへの負担」「カメラの画角にとどまり続ける不自由さ」としています。特に、近距離に大きい顔が表示されるという状態は、私たちに「戦うか逃げるか反応」を引き起こすもので、不快感や不安感につながると指摘しています。
ビデオ会議は「戦うか逃げるか反応」を誘発し対面コミュニケーションよりも大きな負担となる - GIGAZINE
オクロノス氏は、サンダー准教授やバイレンソン教授が挙げたオンライン会議疲れの主要な原因をさらに掘り下げて解説した上で、それぞれの要因を克服するための対処法をアドバイスしています。
1点目に、バイレンソン教授が指摘したように、ビデオ通話では非言語コミュニケーションが制限されることにより「認知的負荷」が高まります。特に複数の人が話している時に誰が主に誰に対して話しているのか顔の向きで受け取ることが難しかったり、うなずきやジェスチャーといった無言のリアクションを普段より大きく見せる必要があったりと、理解するための努力や意図を伝えるために配慮する点が多くなることで、精神的疲労につながるとオクロノス氏は説明しています。
認知的負荷が高まる問題を克服する方法について、オクロノスは5つの提案をしています。1つ目に、静かで明るいスペースを使用することで、気が散ることなく集中して取り組むことができるため、脳への負荷が軽減されるとのこと。2つ目に、メールやアプリなどからの通知をオフにすることでも、気が散ることを防ぐことができます。3つ目に、メモをとりながら取り組むことで、重要な情報を思い出しながら確認できるため、これも認知的負荷を軽減することにつながります。4つ目に、スライドや画像などを用いた会議にすることで、視覚的に理解を助けることができます。最後に、対面の会議でも体を伸ばしたり深呼吸して心を休めたりといった方法で、しっかり休憩を取ることが重要だとオクロノス氏は述べています。
次に、対面での会議や音声のみでの通話とも異なり、ビデオ通話をする場合のオンライン会議では、「動くことができない」という問題点があります。対面の会議では立ちあがってストレッチをしてもその動きが見えていますが、ビデオ通話中だとカメラの画角から外れる動きをすると会議から消えてしまうことになるため、画角内に収まり続けるために静止する必要があります。
静止し続ける必要があるオンライン会議は、精神的ストレスが大きくなると同時に、運動が思考やアイデアに与えるメリットが封じられてしまうことにもなります。そのため、通話しながら動き回ってストレッチできる音声通話を優先したり、ビデオ通話中に休憩を取って体を動かしたりするほか、オンライン会議のない時間を使って短い散歩や簡単なトレーニングなどをスケジュールに含めることも重要だとオクロノス氏はアドバイスしています。
オンライン会議が負担となる3点目に、オクロノス氏は「至近距離でのアイコンタクト」を挙げています。恋人や家族との場合を除いて、他人とある程度近い距離で顔を合わせて会話することはほとんどありません。そのため、バストアップで大きく他人の顔が表示されるビデオ通話では、親しくない人の顔が近づきすぎた時と同様の不快感が生じる可能性があります。また、参加者が少なくなるほど、相手の顔が画面を占める割合が大きくなり、より近くに表示されているように感じるため、より精神的な疲労感が強まりやすいとオクロノス氏は指摘しています。その他、対面での会議では話者に注目するのが一般的ですが、ビデオ通話では常に全員が自分の方を向いているように見えるため、その点もストレスを引き起こす可能性があります。
顔と視線の問題を解決するためには、ビデオ通話よりも音声通話のオンライン会議を優先するほか、ビデオ通話を用いる場合でもほとんどのオンライン会議プラットフォームに備わっている「スピーカービュー」というオプションを積極的に用いるのが良いとオクロノス氏は述べています。スピーカービューとは、現在話している人を自動的に拡大して強調表示してくれる機能のため、常に全員から見られている感覚を軽減することができます。
4点目に、サンダー准教授とバイレンソン教授が共通して挙げている問題点として、「ビデオ通話中は自分の顔が画面に表示され続けている」というものがあります。自分を映した像を見続けることが自己評価につながるという研究があり、このことから長い時間自分の姿を見つめ続ける必要があると、長い時間自己を対象化してしまうため、精神的な不安感や自己肯定感の低下などに影響を与える可能性があります。
この問題点についても、ほとんどのオンライン会議プラットフォームに備わっているオプション機能で軽減できるとオクロノス氏は述べています。例えば、Zoomでは自分のビデオを表示されなくする「セルフビューを非表示」のオプションがあります。その他、オンライン会議のレイアウトを変更できるアプリでは、ビデオフィード全体をできるだけ小さくすることで、自分自身を見つめづらくすることができると同時に、他の人の視線も感じづらくすることができます。
また、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでは、映像や音声の遅延にストレスを感じるというコメントや、人によってマイクの音質や音量が違うことで会話が妨げられるというコメントなど、技術的な問題点がストレスや精神的疲労に大きく影響していると指摘されています。いざ会議を始めようとしたらネットワーク接続が悪くスムーズに始められないといったケースもある他、相手に自分の声が確実に聞こえているという保証がないことも、円滑な進行や集中を妨げる問題となっています。
オクロノス氏は、画面上の調整や会議内容の工夫、そしてしっかり休憩や体を動かす時間をとるといった対象方法によって、オンライン会議疲れを克服して精神的疲労を軽減できると語っています。ただし、オンライン会議の何に疲労を強く感じているかは人によって異なるため、自分の体や心の声を聞いて、それに応じた準備や対応をすることが重要です。
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