サイエンス

NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが気候研究のブレイクスルーにAIと高速コンピューティングが役立つと言及


NVIDIAのジェンスン・フアン(黄仁勳)CEOが、地球仮想化エンジン(Earth Virtualization Engines:EVE)イニシアチブのベルリンサミットで基調講演を行いました。NVIDIAは2021年に人類の未来を予測するスーパーコンピューター「Earth-2」の構築を発表しており、Earth-2とEVEと合わせることが気候研究のブレイクスルーの鍵になっていくとのことです。

AI, Digital Twins to Unleash Wave of Climate Research Innovation | NVIDIA Blog
https://blogs.nvidia.com/blog/2023/07/03/climate-research-next-wave/


異常気象が当たり前になりつつある中で、人類にとって気候変動への対策は急務となっています。しかし、気候変動対策への取り組みが実を結ぶまでには10年単位の時間が必要。結果がわからないのに取り組むというのはとても難しいものです。

NVIDIAは、最善の緩和戦略や適応戦略策定のために、世界の気候を数十年先まで予測できる気候モデルを作り、気候変動予測に特化したAIスーパーコンピューター「Earth-2」を開発して、Omniverseで地球のデジタルツインを構築することを表明しています。

NVIDIA、人類の未来を予測するスーパーコンピューター「Earth-2」を構築 | NVIDIA
https://blogs.nvidia.co.jp/2021/11/18/earth-2-supercomputer/

今回の基調講演でフアンCEOは、研究者が気候研究のブレイクスルーを達成するにあたって必要な3つの「奇跡」を概説しました。


最初に必要な奇跡は、十分に高速に、数平方km単位という高い精度でシミュレートすること。

2つめに必要な奇跡は、膨大な量のデータを事前に計算する能力があること。

最後に必要なのは、Omniverseを用いて全データをインタラクティブに可視化し、政策立案者・各産業・企業・研究者の手に渡るようにすること。

これらの奇跡を実現するために役立つのがAIと高速コンピューティングだと、フアンCEOは語っています。

EVEは気候科学やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、AIに焦点を当てたデジタルインフラストラクチャを統合した国際的コラボレーションで、地球を持続可能な形で管理するために、世界で初めて、容易にアクセス可能なkm単位の気候情報の提供を目指しています。

EVEイニシアチブは、2.5kmの解像度での気候予測を提唱し、進化のペースを加速させていくことを約束しています。その背景には、過去25年の積み重ねがあるとのことです。

なお、基調講演でフアンCEOは、コリオリの力をモデル化することで、グローバルなデータドリブン天気予報モデル・FourCastNetがいかにハリケーン・バービーの進路を正確に予測できたかも示しました。このようなモデルは、従来のシミュレーションで作成された定期的な「チェックポイント」に接続することで、より詳細に長期的な予測が可能になるそうです。

また、デモンストレーション映像として、前例のない北アフリカの熱波をFourCastNetがいかに予測したかの実演も行われました。

Predicting Extreme Weather Risk Three Weeks in Advance With FourCastNet - YouTube


2018年、北アフリカのアルジェリアを51.3度という記録的な熱波が襲いました。この熱波はアフリカでの観測史上最も暑いもので、既存の気候モデルの予測を超えていました。


破線は、気温の測定値の99パーセンタイルを示したもので、オレンジ色は実際に記録された気温、黄色はFourCastNetが予測した気温を示しています。


さらに灰色の細い線で、FourCastNetの50メンバーアンサンブル情報を示したものがコレ。これは気候モデル・Numerical weather prediction(NWP)の典型的サイズで、大規模なスーパーコンピューターで生成に1時間かかります。見たとおり、灰色の線で99パーセンタイルの破線と重なったものはありません。極端な事象というのはまれにしか起きないものなので、任意の精度での予測には大規模アンサンブルが必要です。


しかし、NVIDIA GPUでFourCastNetを実行することで、1000メンバーアンサンブルを、エネルギー消費量を抑えつつ従来の10分の1の時間で実現しました。アンサンブルのうち赤い線で示された12が99パーセンタイルを超え、熱波を正しく予測できています。


12のアンサンブルが予測した熱波を地図で示したものがこれ。AIを用いて、熱波を3週間前に予測することができたとのこと。


GPUアクセラレーションを利用してアンサンブルの規模を拡大すれば、世界中の異常気象をより深く知ることができ、準備するための貴重な時間を稼ぐことができることを、フアンCEOは示しました。

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in サイエンス,   動画, Posted by logc_nt

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