サイエンス

「国連の機関が発表した気候変動に関するレポートは楽観的すぎる」という議論

By Tabitha Kaylee Hawk

その原因や今後の影響に関するさまざまな意見は存在するものの、地球規模で気候が大きく変動して平均気温が上昇していることは厳然たる事実として存在します。気候変動による環境の悪化を軽減するとしてさまざまな対策が練られていますが、国連が関連する機関気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表したレポートは楽観的すぎるという見方が示されています。

The UN's Devastating Climate Change Report Was Too Optimistic - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/43e8yp/the-uns-devastating-climate-change-report-was-too-optimistic

2008年に発表された報告書においてNASAゴダード宇宙研究研究所のトップであるジェームズ・ハンセン氏と7人の気象科学者は、大気中の二酸化炭素濃度が450ppmに上昇し、地球の平均気温が1度上昇することで「実質的に不可逆的な氷床と種の喪失」が引き起こされるメカニズムを明らかにしました。この報告書において科学者は「この惑星はすでに危険領域に突入している」と示しています。

ここで重要なポイントは、「温室効果ガスの増加は自己強化型の正のフィードバック」を引き起こすというところにあるとされています。地球の気候が安全な領域に保たれるためには、大気中の二酸化炭素濃度は350ppmに留まる必要があるという試算が行われていますが、報告書が発表された2008年時点でその値は既に385ppmを示していました。さらに2018年5月になるとその値は410ppmへと上昇しており、この値は過去80万年間で最高の数値と成っているとのこと。大気中の二酸化炭素濃度は、報告書が示していた「危険領域」をはるかに上回る数値へと、この10年で上昇しているということになります。

ハンセン氏らの「警告」から10年後に発表された国連の新しい気候報告によると、このまま気候変動が続くと地球の平均気温は12年間で1.5度も高まり、干ばつや洪水、超大型台風の発生など、人類がこれまでに経験したことがないような壊滅的な災害がもたらされると予測されています。さらに、IPCCは「これは単なる始まりである」としており、21世紀の最後までに地球の平均気温は3~4度も上昇するとされており、人類をはじめとする地球上の生物そのものが存亡の危機に直面する可能性も示されています。

By Bill #

しかし、このIPCCの報告書の内容ですら「楽観的に過ぎる」という見方も存在しているとのこと。報告書を見た科学者の中からは、「正のフィードバックの効果を正しく理解していない」と批判する声が挙がっているといいます。

1995年にノーベル化学賞を受賞したMIT教授のマリオ・モリーナ氏は、「IPCCは、今後増加する影響についての記述があるにもかかわらず、主要なリスクを低く評価しています。すなわち、自己強化型のフィードバックループは、人類がエネルギーシステムを改善して環境汚染問題を解決する前に地球の気候システムを混乱状態に陥れてしまう可能性があります」と語っています

さらに、IPCCの報告書の問題点は「大気から二酸化炭素を取り除くジオエンジニアリング技術をアテにし過ぎている」という点もあるとのこと。その技術の一つとして脚光を浴びているのが、バイオ燃料とCO2の回収・貯留を組み合わせるBECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)という技術です。これは、栽培した作物や樹木を発電所で燃やして電気を作り、排出されたCO2を回収・貯留するものですが、その実効性には疑問の視線も投げかけられています。

温暖化対策の切り札が地球にとっては逆効果? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/021700056/

たとえば、バイオ燃料とCO2の回収・貯留を組み合わせるBECCSという技術がある。これは、栽培した作物や樹木を発電所で燃やして電気を作り、排出されたCO2を回収・貯留するものだ。注目を集める技術だが、ウィリアムソン氏はその潜在的なリスクに関して、厳しい数字を示した。パリ協定の削減目標をBECCSで達成するには、4億3000万~5億8000万ヘクタールの土地で作物や樹木を栽培しなければならないという。これは、地球上の耕作地の約3分の1、または米国国土の半分を占めるほどの広さだ。


今後、地球では人口が増え続け、2055年には100億人に達するともみられています。人口が増えるとそれだけ人間の活動量が増え、それに伴って多くのエネルギーが求められることは避けようがありません。そして、そのエネルギーを生み出すために2018年現在の地球では、多くの二酸化炭素が排出されています。

地球のエネルギー生産の副産物ともいえる二酸化炭素を少なくするには、太陽光発電や風力発電などの再利用可能エネルギーの開発と普及を行って二酸化炭素そのものを排出しないようにするという方法のほか、ある種の過激な方法としては「人間の経済活動を制限する」というものすら存在します。特に、各国の軍備で消費される化石燃料は膨大なものであり、世界最大の軍隊であるアメリカ軍は世界最大の二酸化炭素排出者であるとのこと。

とはいえ、直ちに軍備の削減や人間の経済活動に歯止めを加えることは現実的ではありません。しかし一方で、このままの活動を続けて良いというわけでもないため、人類は「これまでに経験したことがない破壊的な環境」に地球が陥る前に、「これまでに経験したことがない対策」を取る必要があるのかもしれません。

By Marcela

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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