アメリカが中国へのAIチップ輸出規制拡大を検討中、中国がNVIDIA・AMD・Intelなどのチップを兵器やサイバー攻撃に使う危険性から
アメリカ商務省が、早ければ2023年7月中にも、NVIDIAを始めとする半導体メーカーによる中国へのチップ輸出を停止する予定であると、Wall Street Journalが報じました。
U.S. Considers New Curbs on AI Chip Exports to China - WSJ
https://www.wsj.com/articles/u-s-considers-new-curbs-on-ai-chip-exports-to-china-56b17feb
事情に詳しい関係者がWall Street Journalに話したところによると、今回の輸出規制は2022年10月に発表された輸出規制措置を成文化し、対象を拡大する最終規則の一部になるとのこと。この規則は、NVIDIAとAMDの最先端チップの供給が遮断されたことに引き続き、中国のAI構築能力をさらに低下させることになると見られています。
以前発表された高性能チップの輸出禁止を受けて、NVIDIAは規制を回避できる「A800」を生産して中国に提供していました。しかし、商務省が検討中の新しい規則により、「A800」ですら承認を受けなければ販売できなくなると関係者は話しています。
NVIDIAが中国で輸出規制を回避できる新チップ「A800」を生産していることが明らかに - GIGAZINE
by htomari
高性能チップを物理的に入手できなくなった中国のAI企業は、クラウドサービスを利用して演算能力にアクセスし、輸出禁止を回避しようと模索していました。一部の関係者によると、こうした回避策も禁止するため、クラウドサービスの利用についても制限される見通しとのこと。
各半導体メーカーが規制を見送るか、緩和するよう政府に働きかけているため、新規制の導入時期は不透明です。折しも、ジャネット・イエレン財務長官が7月初旬の訪中を検討しており、バイデン政権は中国政府を過度に刺激しないよう、中国の新任の経済閣僚とイエレン財務長官の初のハイレベル経済協議が終わるまで様子を見るだろうと関係者は話しました。
新規制に関する議論が過熱している背景には、OpenAIのChatGPTのような生成AIツールの台頭があります。中国では、AI企業が次々とChatGPTに追随するAIの開発に乗り出しており、アメリカの上層部は、AIを国家安全保障のレンズを通して見るようになりました。
特に危惧されているのが、AIを搭載した兵器が戦争におけるアメリカの優位性に与える影響です。他にも、化学兵器の製造や悪意あるサイバー攻撃用のツールの生成など、AIの兵器転用は大きな脅威となる可能性があります。
アメリカや同盟国の企業への打撃を最小限に抑えつつ重要な技術を保護することは、バイデン政権にとって大きな課題となっています。これに対応すべく、アメリカ商務省は2022年10月に前述の輸出規制を発表し、最先端のチップとその製造機械の流通を厳しく取り締まる方針を打ち出しましたが、これまで具体的な規則として成文化されていませんでした。そのため、アメリカは2022年の秋から、最終規則の策定を念頭に対象企業や同盟国政府と交渉を重ねてきました。
2023年1月に、半導体製造装置大手のASMLを擁するオランダと、TSMCなどが新工場新設に乗り出している日本がアメリカと歩調を合わせることに合意したのも、こうした働きかけを受けてのものでした。
日本とオランダが中国に対する半導体製造装置の輸出規制強化でアメリカと協調することに合意 - GIGAZINE
アメリカは中国への半導体の流入を完全に遮断することまでは考えておらず、韓国や台湾のチップメーカーがあまり先進的ではない、古いチップを製造する中国の既存工場の操業を続けたり、拡張したりすることは容認する方針とのこと。
Wall Street Journalの問い合わせに対し、NVIDIAはコメントを拒否しました。また、AMDと商務省もコメントの要請に応じませんでした。
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