教育

AI時代に大学のコンピューターサイエンス学科はどうやって学生を教育すればいいのか?


記事作成時点では多くの大学生AI利用しており、持ち帰り試験で平均96点のクラスが対面試験に切り替えると平均48点になってしまうという事態も発生しています。そんな中、「AI時代における大学の価値とは何なのか」「AI時代にどのように教育を行えばいいのか」といったトピックについて、アメリカのモンタナ州立大学でコンピューターサイエンスを教えるカーソン・グロス氏が記しています。

The University In The AI Era
https://htmx.org/essays/universities-and-ai/

◆AI時代における大学の価値とは?
多くの人々は、AIがさまざまな質問に答えたり問題の解決策を与えたりするようになった現代において、大学にはどのような価値があるのかと疑問に思っています。コンピューターサイエンスの教育者であるグロス氏は、大学は学生が「AIに頼らないでコードを書くこと」を経験する、貴重な場になるとの見解を示しています。

歴史的に、多くのコンピューターサイエンス学科はコードを書くことを二次的なスキルと見なしており、学科としてはコンピューターサイエンスの基礎に焦点を当ててきました。しかしグロス氏は、コンピューターサイエンスの理論的基礎を深く理解するためには、コードの書き方を学ぶ必要があると主張しています。


皮肉にも近年は、多くの業界でコーディングAIが利用されており、「もはやエンジニア自身がコードを書く必要はないのでは」という意見もあります。このアプローチは、すでに多くのコードを書いた経験があり、どのようなコードが妥当なのかを知っている経験豊富なエンジニアには有効かもしれません。しかし、コードを書いた経験がない若いエンジニアはコードを読むスキルに乏しく、AIが出力したコードが的確かどうかを判断できない可能性があります。

グロス氏は、「コードを読む能力を身につけたいなら、まずコードを書かなければなりません。誰もコードを書いていない会社で、どうやってそれが実現するのでしょうか?」と述べています。その上で、コンピューターサイエンス学科は実践的でコード中心のカリキュラムを組むことで、学生に仕事や時間のプレッシャーから解放された環境で、自分の力でコードを書く機会を与えられると主張。これにより、学生はAI時代にありながら、必要なコードを読む能力を身につけられるというわけです。


もちろん、学生はさまざまな課題をどれだけ楽にこなせるかに力を注いでおり、コードを書く課題を与えても大半はAIを使って終わらせてしまいます。AIを使ったところで学生は何のスキルも得られませんが、AIはほとんどの学部生に求められるスキルと同等かそれ以上の性能を発揮するため、優秀な成績を取って卒業するだけならAI任せで十分です。

そこでグロス氏は、大学という環境は「AIを使えない環境で人間のスキルを評価する」というタスクにおいて、非常に優れた場所であると気付いたとのこと。大学には広い講義室や高価なプリンターがあるため、学生がコンピューターやスマートフォンを使えないように監視しながら、紙とペンによるテストを受けさせることが可能です。

かつてグロス氏は、対面での紙とペンによるテストを時代遅れだと考えていたものの、今ではこれが学生の能力をより正確に、不正が困難な方法で評価する適切なやり方だと考えています。実際、グロス氏は手書きのメモ1ページのみの持ち込みを許可して、3週間ごとに対面式の小テストを行っています。こうした方法で、大学は学生のスキルを高い精度で評価できるとグロス氏は主張しています。


◆コンピューターサイエンスの授業に取り入れた変更点
すでにグロス氏はAI時代に適応するため、自身のコンピューターサイエンスの授業にさまざまな変更を加えています。グロス氏が過去1年間で加えた変更は以下の通り。

・成績評価に占める宿題や課題の重要度を下げた
持ち帰り式の小テストやレポートと同様に、学生は宿題や課題をこなすためにAIを使うのが当たり前になっています。そのため、グロス氏は成績評価に占める宿題や課題の割合を60~80%から50%程度に下げ、宿題や課題を「意欲的な学生がコードを書く機会」として活用しているとのこと。生成AIを使う学生を止めることはできませんが、自身のコーディング能力を高めたいという学生にとっては、AIを使わずにコードを書く貴重な機会になります。

・課題をより意欲的かつ現実的なものにする
グロス氏は課題をより挑戦的なものにするため、AIの助けを借りて、従来より大規模なソフトウェアシステムを課題に取り入れています。これにより学生は複雑なソフトウェアシステムを理解し、現実世界で役立つコードの読み書き能力を養うことができます。

・AIを優秀なティーチングアシスタント(TA)として活用する
すでに多くの学生は勉強でわからないところがあるとAIに質問しており、教師に質問に来る学生はかなり減っているとのこと。AIは年中無休で学生の質問に答えられ、何度同じ質問をされても忍耐強く付き合うことができるため、考えようによっては優秀なTAであるといえます。そこでグロス氏は、自分が受け持つクラスに「AI向けのガイドライン」を提供し、学生のAIがTAとして適切な応答ができるようにしています。もちろん学生は、ガイドラインの内容を書き換えたり削除したりできますが、意欲がある学生はAIをより有効に活用できるというわけです。

・対面形式でのテストの復活
前述したように、グロス氏はオンラインのテストを諦めて、3週間ごとに対面式の小テストを実施しています。問題はすべて記述式であり、文章形式での回答を求めるものもあれば、擬似コードを書くように求めるものもあるとのこと。グロス氏は問題作成にAIを活用しているほか、学生用の復習シートもAIの助けを借りて作成しているそうです。


・デモとビジュアライゼーションにAIを活用
教員がAIを使うことで、授業に役立つデモやビジュアライゼーションを安価かつ素早く作成することができます。グロス氏はAIと協力し、わずか数週間でCPUの内部構造を視覚的に示すモンタナ・ミニ・コンピューター(MTMC)x86に近いバージョンを作成したとのこと。

・授業スライドをマークダウン形式で作成
グロス氏は自身の授業スライドを、すべてAIが分析しやすいマークダウン形式での記述に移行しました。これにより、グロス氏自身がAIにスライドを分析させて矛盾や間違いを探せるようになったほか、学生がAIエージェントを使って授業内容を理解するのも容易になりました。

・授業のレビューにAIを使用
グロス氏は他大学での授業と自分の授業を比較するためにAIを使い、自分が教え損なっているトピックについて確認しています。また、自身の授業全体をAIで分析し、全体に一貫した流れが保たれているかどうかもチェックすることで、授業の質を向上させているとのことです。

・さまざまな要素を自動化
グロス氏はAIを活用して、授業に関するさまざまな作業を自動化しています。その中にはYouTube配信のスケジュール設定や、自動採点システムの出力を解析するためのコマンドスクリプトなども含まれています。


◆今後の変更点
グロス氏は来学期から、授業に以下のような変更を加える予定だとのこと。

・より厳格な擬似コード標準
紙とペンによる小テストを標準化したことで、学生が使用する擬似コードについてより厳格な標準が必要となりました。グロス氏はこの問題に対処するため、学生が小テストの際に持参して参考にできる擬似コードガイドラインを提供する予定です。

・AIを使う学生とそうでない学生の区別
グロス氏の授業の多くでは、学期末にプレゼンテーションをさせて最優秀者に賞を与えます。来学期からはこのプレゼンテーションを「AIを使いたいグループ」と「AIを使いたくないグループ」に分けて、それぞれ個別に評価するとしています。これにより、AIを使いたくない学生は同じ条件の学生同士で競うことができます。なお、グロス氏は「協調しておきたいのは、AIを使用していない優勝者のコードベースを精査し、もしAIの痕跡が見つかれば厳しく罰するということです」と補足しています。

・オープンソース活動へのより積極的な関与
AIはオープンソースのプロジェクトをトレーニングに使用している一方、依存関係やセキュリティの観点から「オープンソースのコードを利用するより社内でAIに書かせた方がいいのでは」と判断する企業が増えています。これによりオープンソース活動は苦境に立たされており、2026年5月には著名なオープンソース開発者のチャド・ウィテカー氏が「AIによってオープンソースへの情熱は完全に冷めてしまいました」と述べ、IT業界からの引退を表明しました。

グロス氏はこうした状況に対処するべく、独立した資金調達手段を持つ大学がオープンソースグループを組織し、オープンソース活動にもっと積極的に関与するべきだと主張。実際にモンタナ州立大学では、自分たちが使用するツールをサポートするためにこうした活動を行っているとのこと。グロス氏は「オープンソースは、公立大学が公共の利益に意義ある形で貢献する方法のひとつです」と述べました。

・AIの危険性を明確かつ正直に伝える
グロス氏は来学期以降、AIの危険性について学生たちにもっと時間をかけて説明するつもりです。その中には「コードを書かないとそもそもコードを読むスキルが身につかない」という点や、「AIに頼り過ぎることで創造性が均質化してしまう」という危険性、そして「AIの誘惑にあらがうより高い倫理観が要求される」といったものが含まれます。


◆将来的ないくつかのコンセプト
さらにグロス氏は、時間や予算の面で現実的ではないものの、実行可能であれば役立つかもしれないいくつかのコンセプトも紹介しています。

・CS+
一部の人々は「CS+(コンピューターサイエンスプラス)」として、他の専攻とコンピューターサイエンスを意義のある形で統合することを提唱しています。グロス氏もこのアイデアは素晴らしいものだと評価しており、他の学科と協力して副専攻の方向性をCS+に転換していくつもりだとのこと。

・ネットワークから隔離されたコンピュータラボの建設
コンピューターサイエンス学科が「ネットワークから隔離されたコンピュータラボ」を設置することで、学生に快適なコンピューティング環境を提供しつつ、AIを使うリスクを排除したテストを実施することができます。

・面接に基づく評価
AIが学生のパフォーマンスに与える影響を排除する方法のひとつに、オフラインでの面談形式の口頭試問があります。これは学生側の不正操作が難しい一方、教員側が要する労力と時間が膨大なものとなるため導入は困難ですが、先見性のある大学は口頭試問を導入し始める可能性があります。

◆結論
グロス氏は、大学はAI後の時代においても依然として重要であり、特に学生の能力を示すという点で構造的な利点があると主張。「コンピューターサイエンス学科は新たな現実に対応し、学生にとっての価値を最大化するために、やや抜本的な対策を検討する必要があると思います。最も重要なのは、手作業でコーディングする機会の提供に重点を置くことです」「このエッセイが、コンピューターサイエンスの教育者が授業内容を改善し、私たちが継続的に成果を上げるのに役立つことを願っています」と述べました。

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in 教育,   AI, Posted by log1h_ik

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