シリコン製トランジスタの発明者であるモリス・タネンバウム氏が94歳で死去
アメリカ・ベル研究所の物理化学者であり、シリコン製トランジスタを発明したモリス・タネンバウム氏が、2023年2月26日に94歳で死去したことが報じられました。
In Memoriam - Morris Tanenbaum, inventor of the silicon transistor - Nokia Bell Labs
https://www.bell-labs.com/institute/blog/in-memoriam-morris-tanenbaum-inventor-of-the-silicon-transistor/
Morris Tanenbaum, Inventor of the Silicon Microchip, Dies at 94 - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/in-memoriam-may-2023
コンピューターなどに搭載されるマイクロプロセッサの元となる電子回路は、トランジスタという小さな半導体素子の組みあわせによって作られています。トランジスタがどのような仕組みで動作しているのかは、以下の記事を読むとわかります。
コレがなくては現代社会が崩壊する「トランジスタ」の仕組みをムービーで解説 - GIGAZINE
現代のトランジスタにつながる発明は1947~1948年、当時AT&T傘下の研究所であったベル研究所のチームによって行われました。タネンバウム氏は1952年にベル研究所の科学物理部門で研究者としてのキャリアをスタートし、1948年の研究を行ったウィリアム・ショックレーの下、シリコン結晶をトランジスタに使用できるかどうかの研究を始めました。
そしてタネンバウム氏は1954年、同僚のアーネスト・ビューラーと共に、最初のシリコン製トランジスタのデモンストレーションに成功しました。この時点でシリコン製トランジスタは量産に適していないとみられていましたが、1955年にタネンバウム氏は量産に適したガス拡散シリコン製トランジスタの開発に成功し、トランジスタの進歩に貢献しました。
しかし、AT&Tのビジネスにトランジスタが直接関係していなかったこともあり、ベル研究所はタネンバウム氏らに対するさらなるトランジスタ研究の支援を行わなかったとのこと。タネンバウム氏は1999年のインタビューで、「ベル研究所はシリコン製トランジスタ技術で大きなリードを持っていましたが、AT&Tのビジネスと直ちに関係ないこともあり、この分野の適切な研究をやめてしまいました。そして集積回路を含むシリコン製トランジスタ技術は、代わりにIntelやテキサス・インスツルメンツが担うことになりました」と述べています。
その後もタネンバウム氏はさまざまな研究を行い、1962年にはベル研究所の冶金(やきん)部門のアシスタントディレクターに任命され、現代のMRIをはじめとする医療用画像診断に使用される高磁場超伝導磁石を開発した研究チームなどを率いました。また、光ファイバーやデジタル電話交換システムの開発も支援したとのこと。
科学者として数多くの功績を残したタネンバウム氏ですが、1970年代後半から1980年代初頭にかけてAT&Tの子会社で社長を務め、1984年にはAT&Tコミュニケーションズの社長に就任するなど、ビジネスマンとしての顔も持っています。タネンバウム氏は最終的に、AT&Tのヴァイスプレジデント兼最高財務責任者としてビジネスマンとしてのキャリアを終えました。
そして2023年2月26日、タネンバウム氏はニュージャージー州ニュープロビデンスの自宅で、94歳で死去しました。
・関連記事
世界初の「木製のトランジスタ」が開発される - GIGAZINE
コンピューターに入っている「トランジスタ」は何をしているのか? - GIGAZINE
コレがなくては現代社会が崩壊する「トランジスタ」の仕組みをムービーで解説 - GIGAZINE
コンピューターやスマホなど現代文明に欠かせないトランジスタの原理がよくわかるムービー - GIGAZINE
シリコンよりも高速&省電力なカーボンナノチューブでできたトランジスタの開発に成功 - GIGAZINE
シリコンに代わるカーボンナノチューブを用いたプロセッサの作成に研究者が成功 - GIGAZINE
ムーアの法則の限界を突破する「金属-空気トランジスタ」が半導体を置き換える可能性 - GIGAZINE
・関連コンテンツ