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ムーアの法則の限界を突破する「金属-空気トランジスタ」が半導体を置き換える可能性


ムーアの法則」の限界がささやかれている半導体に代わって、新たに「Metal-Air Transistor(金属-空気トランジスタ)」と呼ばれる技術が開発されています。金属-空気トランジスタが実現することで、ムーアの法則はあと20年間は維持されると言われています。

Metal–Air Transistors: Semiconductor-Free Field-Emission Air-Channel Nanoelectronics - Nano Letters (ACS Publications)
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.8b02849

New Metal-Air Transistor Replaces Semiconductors - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/devices/new-metalair-transistor-replaces-semiconductors

Intel創業者のゴードン・ムーア氏が提唱した、「半導体集積回路のトランジスタ数は18カ月(のちに2年に修正)ごとに倍増する」という経験則は、半導体産業全体で開発目標とされ、その通りに微細化技術が開発されて半導体の性能が向上してきました。しかし、回線幅が原子レベルに近づく中、ムーアの法則を維持することは困難になり、遅くとも2025年に物理的限界に達してムーアの法則は実現不可能になるという状態になっています。

そんな中、オーストラリアのRMIT大学の研究者が、金属ベースの空気チャンネルトランジスタ(ACT)を開発しました。ACTは電荷ベースの半導体とは違い、35ナノメートル未満のエアギャップ(空気層)によって分離したソースとドレインそれぞれの対面式金属ゲートを使うことで、基板から垂直方向にトランジスタネットワークを構築する技術だとのこと。エアギャップは空気中の電子の平均自由行程よりも小さいので、電子は飛散することなく室温中で空気中を移動することができます。


微細化の追求を止め、立体構造にフォーカスを当てることで、ACTでは単位面積当たりのトランジスタ数を増加させることができます。ACTを開発中のシュルチ・ニランター博士は、「シリコンバルクに縛られたこれまでのトランジスタと異なり、私たちの開発するデバイスは、基板からボトムツートップで製造できるアプローチです。最適なエアギャップを作ることさえできれば、完全な3Dトランジスタネットワークを構築できます」と述べています。

トランジスタの主材料に、半導体ではなく金属と空気を用いることは、エミッタやコレクタを敷き詰めるのが1つのプロセスで可能な点、既存のシリコン製造プロセスをACTの製造に流用できる点、ドーピング・熱処理・酸化などのシリコン半導体で不可欠な処理が不要なため、処理工程が半導体に比べて大幅に少なくなり、製造コストを大幅に削減できる点などでも大きなメリットがあるとニランター博士は強調しています。

その上、シリコンを金属で置き換えることで、どんな誘電体表面にもACTを作ることができる可能性があり、超薄型のガラスやプラスチックにデバイスを構築することで柔軟で体に着用できる技術にも応用できると期待されています。


ACTについて研究者らは概念実証を終えたため、今後は様々なソース+ドレイン構成をテストするステップに進むとのこと。より耐久性のある材料を使って安全性を高め、コンポーネントの効率を向上させるために、リソグラフィや成膜の技術や、ベースとなる金属の選定が行われる予定です。なお、ACTの理論速度は、現在の半導体デバイスが動作するスピードの約1万倍となるTHz(テラヘルツ)の領域にあるとのことで、これから10年間で商用レベルの電解放出空気チャンネルトランジスタを開発するという比較的、余裕のあるロードマップを描いているそうです。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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