シリコンに代わるカーボンナノチューブを用いたプロセッサの作成に研究者が成功
by ColiN00B
近年、従来のシリコンを用いたトランジスタに代わり、カーボンナノチューブを使用したより性能の高いトランジスタの開発が多くの研究者によって試みられています。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、カーボンナノチューブを用いたトランジスタに関わる問題を解決し、「Hello World」を表示させることに成功したと報告しました。
Modern microprocessor built from complementary carbon nanotube transistors | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1493-8
MIT engineers build advanced microprocessor out of carbon nanotubes | MIT News
http://news.mit.edu/2019/carbon-nanotubes-microprocessor-0828
A Carbon Nanotube Microprocessor Mature Enough To Say Hello IEEE Spectrum - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/processors/modern-microprocessor-built-using-carbon-nanotubes
コンピューターなどに搭載されるマイクロプロセッサなどの元となる電子回路は、トランジスタという小さな半導体素子の組みあわせによって作られています。「半導体集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」というムーアの法則は、近年になって限界を迎えており、シリコンに代わるトランジスタの新たな素材としてカーボンナノチューブが注目されています。
カーボンナノチューブは高い電気伝導性を持っており、カーボンナノチューブ電界効果トランジスタ(CNFET)はシリコン製のトランジスタと比較して10倍のエネルギー効率を実現できるともいわれています。ところが、カーボンナノチューブを用いたトランジスタには多くの課題が存在し、なかなか実用に耐えうるマイクロプロセッサの構築は実現していませんでした。
研究チームによると、カーボンナノチューブでトランジスタを構築するにあたり、大きく3つの課題が存在しているとのこと。1つ目が「カーボンナノチューブをウェハー上に置くと量が均等にならず、過剰に堆積した部分ができてしまう」という点、2つ目が「カーボンナノチューブは半導体型と金属型の2種類に分かれてしまう」という点、3つ目が「トランジスタのP型半導体とN型半導体を作り出すのが難しい」という点です。MITの研究チームはこれらの課題を乗り越えるべく、いくつかの解決策を考案しました。
by Geoff Hutchison
カーボンナノチューブ製トランジスタを作る際、シリコン製のウェハー上にカーボンナノチューブをのせるために、カーボンナノチューブは溶液に入れられてから全体に広げられます。この際、ほとんどのカーボンナノチューブはウェハー上で均一になるものの、時には1000本以上の束となってしまい、大規模なトランジスタの製造を妨げるとのこと。
そこで研究チームは個々のカーボンナノチューブ同士の結合よりも、ウェハーと接するカーボンナノチューブがファンデルワールス力で結合する力の方が強い点に着目。カーボンナノチューブとウェハーの接着を促進する薬剤で前処理を行うことで、カーボンナノチューブ同士が過剰に固まった箇所だけを洗い流すことに成功したそうです。
また、カーボンナノチューブを製造する際、ほとんどの半導体型カーボンナノチューブに紛れて、少量の金属型カーボンナノチューブが混合物として生産されます。トランジスタに利用するカーボンナノチューブは半導体の特性が必要ですが、金属型のカーボンナノチューブが紛れ込んでしまうことにより、トランジスタの性能が低下するか動作が停止してしまうとのこと。問題に対処するには半導体型カーボンナノチューブの純度を約99.999999%にまで高める必要がありますが、記事作成時点での技術では99.99%ほどの純度が限界となっています。
そこで研究チームは半導体型カーボンナノチューブの純度を高めるのではなく、金属型カーボンナノチューブの存在を許容する方向での解決策を生み出しました。純度が重要となる理由は、プロセッサの論理回路にノイズが発生するからです。そこで研究チームはシミュレーションを行い、金属型カーボンナノチューブによるノイズの影響を受けやすい論理回路を特定し、それを避ける組みあわせでプロセッサを構築することで金属型カーボンナノチューブの混入問題を解決しました。
さらに研究チームはカーボンナノチューブの層の上に酸化させた金属を付着させ、P型半導体とN型半導体を構築する技術も開発。こうして研究チームは従来と同じカーボンナノチューブを用いてトランジスタを作り出し、「RV16X-NANO」と名付けられた16ビットマイクロプロセッサの構築に成功しました。
by geralt
研究チームが開発したマイクロプロセッサには1万4000以上のカーボンナノチューブ製トランジスタが使われており、RISC-V命令セットを実行できるとのこと。実際に、研究チームは古典的な「Hello World」を表示させるプログラムを改編し、「Hello, World! I am RV16XNano, made from CNTs(ハロー、ワールド!私はRV16X-Nano、CNTから作られました)」というメッセージを表示させることができたそうです。
「これは、高性能でエネルギー効率のいいコンピューターに有望な、新興ナノテクノロジーによって作られた最も先進的なチップです」「シリコンには限界があります。カーボンナノチューブはシリコンの制限を突破する最も有望な方法の1つです」と、研究チームのEmanuel Landsman氏は述べました。
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