その曲が好みかどうかは「5秒間」聴けば分かる、人は曲の「音」ではなく「雰囲気」に反応することが実験で判明
人は、ある曲をほんの数秒間聴いただけで、その曲全体が好みかどうかを判断できることが、心理学者らの研究により明らかになりました。音楽の一部に対する認識が音楽全体を代表するものであることを示す今回の研究は、人の認知処理に関する新たな知見をもたらすものだと評価されています。
The Whole is Not Different From its Parts | Music Perception | University of California Press
https://doi.org/10.1525/mp.2023.40.3.220
Knowing We Like a Song Takes Only Seconds of Listening, New Psychology Research Finds
https://www.nyu.edu/about/news-publications/news/2023/january/knowing-we-like-a-song-takes-only-seconds-of-listening--new-psyc.html
音楽配信プラットフォームでは、よく曲を抜粋したサンプルが提供されています。しかし、リスナーが抜粋を聴いただけで曲を判断することが本当に可能なのかどうかは、これまで不明でした。また、抜粋に対するリスナーの反応が曲全体に対する評価と一致しているのかどうかも確かめられていません。
そこで、ニューヨーク大学心理学部の研究チームは、大学の学生と近隣住民の計643人を集めて実験を行いました。まず、研究チームはアメリカ人がよく聴く音楽がまんべんなく含まれるように、合計で260曲の音楽を選出しました。具体的には、1940年~2015年にビルボードのポピュラー音楽のヒットチャートに掲載された曲からランダムに2曲選んだ計152曲、外部の専門家パネルから「無名の曲」と評価された52曲、同じく専門家にクラシックからロックまでの8つの幅広いジャンルを代表すると評価された56曲が使われました。
研究チームは次に、これらの260曲のイントロ・アウトロ・コーラス(サビ)・バース(サビ前の導入部分)から抜き出した5秒・10秒・15秒の抜粋を作成しました。つまり、1曲から12クリップの抜粋が作られたことになります。
そして、各参加者に12曲の「曲全体」と180クリップの「抜粋」を聴かせて、それを聴いたことがあるかどうかや、気に入ったかどうかを尋ねるアンケートに答えてもらいました。なお、数秒の抜粋が多いとはいえ参加者は合計192曲も聴くことになるので、実験は気分転換をはさみながら行われたとのこと。
こうして得られた音楽の好みに対するアンケート結果を分析したところ、参加者の好みは「曲全体」か「抜粋」かにかかわらず同じだったことが判明し、「抜粋を聴けば曲全体の好き嫌いが予測できる」ということが確かめられました。
また、クリップの長さによる差も見られなかったことから、論文の共著者であるパスカル・ワリッシュ氏は「人はその曲を気に入るかどうかを5秒以内に判断できることが分かりました」と述べました。
なお、曲を耳にしたことあるかどうかが評価に影響を与えた可能性はありますが、参加者が知っていた曲は全体の5分の1程度しかなかったとのこと。また、抜粋がまだ聴いたことがない曲のものだった場合、その後に曲全体を聴いて評価をすると抜粋と曲全体の評価のずれが大きくなる傾向がありましたが、研究チームは「その場合でもランダムな偶然と比較するとはるかに予測性が高いものでした」と結論付けています。
今回の研究について、ワリッシュ氏は「私たちの発見は、楽曲のどのような特性がリスナーの感情を呼び起こすのかについて、幅広い示唆を与えてくれるものです。ほんの少しの抜粋でその曲の好き嫌いが分かるということは、私たちは音楽の曲譜そのものではなく、その曲がもたらす雰囲気に反応していることを示しています」と話しました。
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