「鉄」で細菌を兵糧攻めにする「栄養免疫」の驚くべきメカニズムとは?
人間の体内では、細菌に感染した際に増殖を抑えるために「栄養免疫」と呼ばれる防御策を取っており、栄養免疫に用いられる重要な要素として「鉄」があります。また、鉄は生物にとって必須であるとともに有害な元素です。そんな鉄について創薬科学者のデレク・ロウ氏が解説しています。
The War for Iron | Science | AAAS
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鉄は生命活動を行う上で重要な酵素に不可欠な元素ですが、生物学的に利用可能な鉄を土壌や海洋で手に入れることは比較的難しいとされています。純粋な鉄は空気中の酸素に弱く、酸化されやすい性質を持ちます。鉄(III)の化合物は溶解度が低く、不溶性の酸化鉄(III)、一般的に錆(さび)と呼ばれる物質へと変化します。
また、鉄と酸素は生物にとって必須であると同時に有害な成分です。鉄は活性酸素を発生させ、細胞に有害になることもあるとされています。しかし、生物学的に鉄は非常に重要な元素であるため、微生物はシデロホアというタンパク質を用いて活性酸素による有害な作用を抑える方法を編み出しました。
繁殖するために鉄を必要としているのは、体内に侵入した細菌も同様です。そのため人間が細菌に感染した場合、増殖を抑えるために腸からの鉄の吸収や輸送が制限されます。人間が感染症にかかっている間、細菌が利用可能な鉄や亜鉛、マンガンの量が減少することで、細菌に対して効果的な防御策を取ることができます。これがロウ氏が言う「栄養免疫」です。
細菌に感染すると、体内の白血球の1種であるマクロファージは鉄を含むタンパク質の受容体を持つ細胞外小胞を放出することで、鉄を捕獲します。鉄を捕獲することで細菌の増殖に必要な鉄が利用できなくなると報告されています。
これまでの実験で、サルモネラ菌に感染させたマウスの体内で、感染に応じてマクロファージの小胞体が細胞外小胞の生成と放出を開始させるメカニズムが確認されました。
さらに、一部の細菌は赤血球を溶解させてヘモグロビンから鉄を奪うことが判明しています。ようなメカニズムを持つ細菌がいるのは、細菌が鉄を利用する前にそうした細菌を捕捉する防御層があることを示唆しており、まだ見つかっていない免疫の秘密が他にもあるはずだとロウ氏は話しました。
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