サイエンス

うつ病に「腸内細菌」が関係している新たな証拠が登場


学術誌大手のScienceが「うつ病に関連しているとみられる腸内細菌」について最新の研究結果を報じました。

Combined effects of host genetics and diet on human gut microbiota and incident disease in a single population cohort | Nature Genetics
https://www.nature.com/articles/s41588-021-00991-z

Gut microbe linked to depression in large health study | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/gut-microbe-linked-depression-large-health-study

Regulation of Neurotransmitters by the Gut Microbiota and Effects on Cognition in Neurological Disorders
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8234057/

脳と腸はホルモンやサイトカインなどの液性因子や自律神経系を介して密に連携していることが知られており、脳と腸の関連を指す脳腸相関という用語も存在します。近年の研究では腸内に住み着いている無数の細菌を指す「腸内フローラ(腸内細菌叢)」まで腸と脳に関わりがあると考えられることから「脳‐腸‐腸内細菌相関」という用語まで登場しており、世界中の研究機関が脳‐腸‐腸内細菌相関に関する研究を進めています。

脳腸相関③:脳腸相関は腸内細菌なしには語れない?! | 特集コンテンツ | ヤクルト中央研究所
https://institute.yakult.co.jp/feature/008/02.php


新たにオーストラリア・ベイカー研究所のギヨーム・メリック氏とイギリス・ケンブリッジ大学のマイケル・イノウエ氏らが発表した研究は、遺伝子と腸内細菌叢の関係に焦点を当てた研究。メリック氏らは、フィンランド保健福祉研究所が5年に1度というペースで約40年間続けている全国健康調査「FINRISK」の2002年度のデータを使って、被験者5959人の遺伝子構成と腸内細菌叢の関連を調べました。

この分析結果は「どの遺伝的変異がどの腸内細菌の存在量に影響を与えているか」を主題としており、各分析結果は乳糖耐性にかかわるLCT遺伝子の変異状況とビフィズス菌の存在量の関係や、大腸がんとの関連が疑われるMED13L遺伝子座の変異状況とエンテロコッカス・フェカリスの存在量の関係など多岐にわたるものでしたが、Scienceが特筆する形で取り上げているのが「うつ病に関連しているとみられる腸内微生物」です。

メリック氏らによると、後にうつ病を発症した181人においてMorganella(モルガン属)の細菌が有意に増加していたとのこと。モルガン属の細菌は2008年の研究でも「うつ病患者はモルガン属の細菌とその他グラム陰性菌が産生する化学物質について強い免疫応答を示す」という研究結果が発表されており、長年にわたってうつ病との関連が疑われてきました。そのため、遺伝子の分野からモルガン属の細菌とうつ病の関係について切り込んだ今回の研究は、腸内細菌によって引き起こされる炎症が気分に影響を与えるということを立証する新たな証拠になり得るとされています。


なお、アイルランドのコーク大学で腸内細菌叢について研究するジェラルド・クラーク氏によると、腸内細菌叢と脳の関連について調べる研究はまだまだ初期段階にあり、多様な形態を持つといううつ病自体の研究や、腸内細菌叢が実際どのようにうつ病に影響を与えるかなどについて多数の課題が存在するとのこと。今回の調査結果に関してもモルガン属の細菌を腸内から除去する方法については目処が立っておらず、腸内細菌叢をコントロールしてうつ病を改善に導くサプリメントの登場は「もう少し難しい」とのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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