腸内細菌は腸以外の場所でも暮らせるように進化する可能性があるという研究結果
腸の内部に生息している細菌は腸内細菌と呼ばれ、腸内細菌の状態や多様性が人々の健康に関与しているとして近年注目されています。そんな腸内細菌が「腸以外の場所で暮らせるように進化する可能性がある」という研究結果が発表されました。
Within-host evolution of a gut pathobiont facilitates liver translocation | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-022-04949-x
How gut microbes can evolve and become dangerous | YaleNews
https://news.yale.edu/2022/07/13/how-gut-microbes-can-evolve-and-become-dangerous
Gut Bacteria Could Be Evolving Inside Us to Escape The Intestine : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/gut-bacteria-could-be-evolving-inside-us-to-escape-the-intestine
腸内細菌が人間の健康に及ぼす影響についてはさまざまな研究が行われており、腸内細菌は慢性的な炎症や体重増加、うつ病といった病気にも影響を与えているといわれています。腸内細菌が健康に影響を及ぼすメカニズムには不明点も多いものの、仮説の1つとしては腸の粘膜が薄くなって未消化物や老廃物などが腸の外に漏れ出すリーキーガット症候群により、腸内細菌が流出してさまざまな病気につながる慢性炎症を引き起こすというものがあります。
イェール大学の免疫生物学准教授を務めるノア・パーム氏は、「しかし、潜在的に病原性のある細菌が健康な人の体内に数十年も存在し、健康に影響を及ぼさないというのは1つの謎でした」と述べています。そこでパーム氏らの研究チームは、腸内細菌が時間の経過と共にどのように進化するのかを監視する研究を行いました。
研究チームは腸内微生物を持たない無菌マウスに対し、病原性のある腸球菌の一種でありヒトの腸内細菌叢(そう)の約6%に見られるEnterococcus gallinarumを導入し、3カ月間にわたりモニタリングする実験を行いました。
実験の結果、Enterococcus gallinarumがマウスの腸内で2つの異なるタイプに進化することが観察されました。1つのタイプは元の株と似たものでしたが、もう1つのタイプはDNAの変異によって腸の粘膜でも生息できるようになっていた上に、腸を脱出してリンパ節や肝臓でも生き延びられるように進化していました。
変異した細菌は臓器に隠れることができ、少なくとも一時的に免疫系の攻撃を避けることが可能だとのこと。このような細菌の存在は、時間の経過とともに自己免疫疾患に関連する炎症を引き起こすかもしれないと研究チームは指摘しています。
この進化のプロセスは「宿主内進化」と呼ばれる現象であり、個体間では非病原性の細菌が優先的に伝達されやすいことから、新たな宿主ごとに進化がやり直されるとみられています。腸内細菌の多様性があると、個々の細菌が得られる資源量が限られるために個体数も減少し、危険な変異を遂げた病原菌が現れる可能性も減ります。しかし、腸内細菌の多様性が低い場合、危険な変異を持った病原菌が発生する可能性が高まるとパーム氏は説明しました。
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