生き物

カンボジアで地雷を嗅ぎ当てる「ヒーローラッツ」はいかにして元軍人たちを変えたのか?

by APOPO's HeroRATs

タンザニアに本拠を置く社会的企業のAnti-Personsmijnen Ontmijnende Product Ontwikkeling(APOPO)は、地雷除去のために訓練されたネズミであるヒーローラッツを用いた活動をカンボジアで展開しています。そんなヒーローラッツが、持ち前の愛らしさでカンボジアの地雷除去活動を取り巻く文化まで変えてしまったいきさつを、人類学者のDarcie DeAngelo氏がレポートしました。

How Rats Are Overturning Decades of Military Norms – SAPIENS
https://www.sapiens.org/culture/land-mine-detection-rats/

2010年からカンボジアの地雷除去活動に携わってきたDeAngelo氏によると、カンボジアで地雷の除去活動をする組織には軍事的なイメージが染みついているとのこと。なぜなら、「デマイナー」と呼ばれる地雷除去員の多くは元兵士で、デマイナーたちは自分たちのチームを「小隊」と軍隊風に呼び、軍服をモチーフとした制服を着用しているからです。


デマイナーは命がけで地雷を除去していますが、地元の人々に「地雷除去小隊の一員です」と自己紹介すると、不信感をあらわにされることが少なくありません。これは、カンボジアでは政府が強硬手段で村人たちの土地を奪ったり、政権に異を唱える人を弾圧したりしてきたため、「デマイナーも結局は政府と結びついた軍人だ」と思われてしまっているからです。また、ダム建築や森林伐採に反対していた環境活動家を、憲兵のふりをしたデマイナーが逮捕してしまったといううわさもあるとのこと。


こうした問題があるため、地雷原で活動するデマイナーはドクロの警告表示にちなんで「ゴーストヘッド」と呼ばれ、カンボジアの市民との間には深い溝が横たわっていました。DeAngelo氏はある村人の女性から「デマイナーなんて憲兵隊と変わりませんよ」と言われてしまったこともあったそうです。

そんな状況を大きく変えたのが、APOPOのヒーローラッツです。9カ月の訓練で地雷を見つけられるようになるアフリカ原産のサバンナアフリカオニネズミは地雷探知犬よりも安価で、地雷以外の金属にも反応してしまう金属探知機よりも高い精度を発揮します。また、体重が3ポンド(約1.3kg)、体調3フィート(約90cm)とネズミとしては巨体ですが地雷は反応しないので、難なく地雷原を歩き回ることが可能です。

しかし、ヒーローラッツがそれまでの地雷除去活動を大きく変えたのは、地雷探知動物としての性能ではなくかわいらしさでした。人間によく慣れて足音や手拍子に反応し、時には人間の手足に登ってくる愛くるしい姿を見ると、険悪なムードだった人たちも思わず顔がほころんでしまうとのこと。


こうしてヒーローラッツのとりこになったデマイナーたちは、毎朝ヒーローラッツの耳や手足、尻尾に日焼け止めを塗ってやり、なでたり抱き上げたりしながら笑い合うようになりました。兵士からデマイナーへと転身したある女性は、自分のパートナーのヒーローラッツを妹と呼んでかわいがっているのだそうです。また別のデマイナーは「最初はネズミを害獣だと思っていましたが、今では最高の友だちのように感じます」と話しました。

このような触れ合いは、APOPOの広報活動にも生かされており、例えばSNSではヒーローラッツのかわいい写真をアップロードする毎週土曜日の「Raturday」という企画が展開されているほか、ヒーローラッツがさまざまな祝日を記念した衣装に身を包んだ写真がアップロードされることもあります。


地雷除去活動を成功させる上でも、組織の非軍事化が欠かせません。なぜなら、厳しい上下関係や指揮系統で凝り固まった軍事的なコミュニケーション体制は地雷の発見を遅らせ、より多くの人命を危険にさらすからです。

組織が変わっても、国家的暴力にさらされてきた村人たちのデマイナーに対するイメージは、一朝一夕には変わりません。しかし、デマイナーたちは少しずつ軍隊的なやり方を手放し始めており、広報に使われるイメージ写真には軍人のようないかめしい面持ちで遠くを見つめるデマイナーではなく、ネズミに首筋をくすぐられて気さくに笑うデマイナーの姿が使われるようになっています。

こうした変化が、いつの日かカンボジアで地雷の除去にあたる人たちを取り巻くマイナスイメージを取り払ってくれるかもしれないと、DeAngelo氏は述べました。

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in 生き物, Posted by log1l_ks

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