サイエンス

電動自転車の普及で世界的に増加しているケガ「ライムバイク脚」とは?


近年は世界的にシェアサイクルサービスが普及しており、レンタルの電動自転車は都市部における主要な交通手段のひとつになっています。そんな中、電動自転車で事故を起こした人にみられる特徴的なケガについて、世界各国の医師らが「ライムバイク脚」と名付けているとのこと。ライムバイク脚とは一体何なのか、電動自転車の何が問題なのかについて、ロンドン大学クイーン・メアリー校の上級臨床講師であるジェリー・ツァン氏が解説しました。

‘Lime bike leg’: what doctors are seeing in ebike crashes
https://theconversation.com/lime-bike-leg-what-doctors-are-seeing-in-ebike-crashes-284674

ある日、比較的軽微と思われる自転車事故を起こした30代の男性が、ロイヤル・ロンドン重症外傷センターに搬送されました。ツァン氏が診察したこの男性は、シェア型電動自転車に乗っていた際にコントロールを失って転倒したとのことで、脚の脛骨(けいこつ)が皮膚を突き破り、足首周辺が複雑骨折していました。骨折を修復し、皮膚や筋肉を移植するために複数回の手術が必要となり、男性はその後数カ月にわたってリハビリと長期間の休職を余儀なくされたそうです。

男性のように、電動自転車に乗っていた時の事故で予期せぬ重傷を負う事例は、ますます一般的になっているとツァン氏は指摘。複数の国の救急救命センターの同僚たちは、シェア型電動自転車の事故後に同様のケガを目にしたと報告しており、一部の外科医はこれらの脚や足首、膝に生じる深刻なケガを非公式に「ライムバイク脚」と呼んでいるとのこと。

ライムバイク脚という名称は、世界最大級の電動モビリティシェアサービス企業の「Lime」にちなんで名付けられたものですが、同様のケガはLimeに限らず他の事業者の電動自転車でもみられます。ツァン氏は、「これらの負傷は特定の企業に限ったものではありません。シェア型電動自転車の利用が急速に拡大していることと関連しているようです」と述べています。


一般に「自転車で転んでケガをした」と聞くと、軽度の打撲や擦り傷、手首の骨折などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、ライムバイク脚の場合はもっと深刻なことが多く、よくある例としては脛骨の骨折、足首や膝の脱臼、重度の皮膚や筋肉の損傷などが挙げられます。

これらのケガが特殊なのは、その発生状況のためです。電動自転車は従来の自転車よりも圧倒的に重く、多くの場合は30kg前後に達し、加速も通常の自転車より速くなります。そのため、運転手がコントロールを失うと自転車が脚の上に倒れたり、自転車と地面に脚が挟まれたりして、軽量の自転車ではみられないようなねじれや圧迫の力が加わることがあります。その結果、まるでオートバイの事故でみられるものとよく似た負傷が発生するというわけです。


ライムバイク脚が増加している理由は単純で、電動自転車に乗る人がこれまで以上に増えているからです。シェア型電動自転車サービスはヨーロッパ・北米・アジア・オーストラリアなどの都市部で急速に拡大しており、利用者の増加に伴って負傷者も増えています。ロンドンでは深刻な自転車事故の約20%が電動自転車によるもので、2016年頃には約1%だったことを考えると爆発的な増加といえます。

自転車・電動自転車・電動スクーターに関する約1万4000件の事故について調べたアメリカの調査では、電動自転車による負傷事故は2021年から2022年の間に倍増したことが判明。電動自転車の事故のおよそ3分の1は自動車との接触によるもので、負傷したライダーの約15%は入院が必要であり、最も多かった負傷は骨折でした。

もちろん、シェア型電動自転車の乗車のほとんどは無事故のまま完了しています。しかし、毎年何百万回を超える乗車が行われた場合、たとえ乗車1回あたりの事故率が低くても、相当数の重大事故につながる可能性があるとのこと。


ツァン氏は、自転車事故による重傷度は自転車の種類そのものよりも、運転手が高齢であること飲酒、自動車との衝突といった要因とより強く関連しているとして、必ずしも電動自転車だからといって重傷度が高いとはいえないと指摘。しかし、運転手が電動自転車の操作特性に慣れていない場合、重傷を負いやすい可能性もあると認めています。

電動自転車は車体が通常の自転車よりも圧倒的に重いため、特に低速走行時においてブレーキング・コーナリング・バランスの感覚が異なるとのこと。普段は電動ではない自転車に乗っている運転手が、慣れていない電動自転車に乗った場合、感覚の違いに戸惑って事故を起こすかもしれないというわけです。

ライムバイク脚による重度の骨折では、骨を固定するために金属プレート・ネジ・ロッドを埋め込んだり、損傷した皮膚や筋肉を移植したりする手術が必要です。患者は数週間ほど松葉づえが手放せず、筋力や歩く自信を取り戻すのに数カ月、時には数年かかるケースもあるとのこと。骨折が治った後も患部の痛みやこわばり、可動域の制限が長期間続く人もいるそうで、単なる自転車事故として軽視できるものではありません。

ツァン氏はライムバイク脚を防ぐため、電動自転車ユーザーに「これらのケガの多くは予防可能です。電動自転車を初めて利用するライダーは、従来の自転車とは操作感が異なることを認識しておく必要があります」「運転中のスマートフォンの使用を避けて、路面がぬれている場合は特に注意を払うことが、交通状況に注意を払うことと同じくらい重要です。また、電動自転車の事故に関する研究では、アルコールが原因として不釣り合いなほど多く挙げられています」とアドバイスしています。また、頭部損傷を防ぐためのヘルメット着用も推奨しました。

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in サイエンス,   乗り物, Posted by log1h_ik

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