イーロン・マスクの脳インプラント企業「Neuralink」が違法な動物実験を繰り返しているとして政府の調査を受けていることが明らかに
電気自動車メーカーのテスラや宇宙開発企業のSpaceXの創業者であり、Twitterを買収したことでも有名な事業家のイーロン・マスク氏は、他にも脳神経にコンピューターを接続することを試みる脳インプラント企業・Neuralinkを立ち上げています。このNeuralinkが、違法な動物実験を繰り返しているとしてアメリカ政府の調査を受けていると報じられました。
Exclusive: Musk’s Neuralink faces federal probe, employee backlash over animal tests | Reuters
https://www.reuters.com/technology/musks-neuralink-faces-federal-probe-employee-backlash-over-animal-tests-2022-12-05/
Report: Elon Musk's brain chip startup Neuralink being investigated for animal welfare violations - Silicon Valley Business Journal
https://www.bizjournals.com/sanjose/news/2022/12/05/neuralink-under-animal-welfare-investigation.html
ロイターが、脳インプラント企業であるNeuralinkの内部から「同社で行われている動物実験では、動物に不必要な苦しみと死を与えている」という苦情が漏れており、アメリカの動物福祉法に違反している可能性があるため、政府の調査を受けていると報じました。
Neuralinkは神経麻痺による半身不随などを治療することに役立つ脳インプラントを開発している企業。Neuralinkは2020年に脳インプラント用チップの「Link」を発表、このチップを頭蓋骨に埋め込むことで脳活動をリアルタイムでモニタリングできるようになるとアピールしていました。
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マスク氏はLink発表時に「すでにLinkは人間での臨床試験が可能な段階にまで進んでいる」とアピールしていましたが、Neuralinkの脳インプラント技術は記事作成時点でも人間での臨床試験を行う段階には至っておらず、動物実験が行われているだけでした。しかし、2022年にはこの動物実験が動物虐待であるとして、Neuralinkは動物愛護団体から告発されています。
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ロイターはNeuralinkの内部情報に詳しい情報筋から得た情報として、「同社は捜査官の要請により、ここ数カ月にわたりアメリカ農務省の監察官による調査を受けている」と報じています。情報筋によると、今回の調査はNeuralinkの研究者による動物実験の被験体となる動物の扱いが、動物福祉法に違反しているか否かに焦点を当てているそうです。
Neuralinkの内部文書数十個をチェックし、20人以上の関係者にインタビューを行ったというロイターは、「『開発を加速するように』と圧力をかけてくるマスクCEOの影響が、Neuralink社内での実験失敗をまねいている」と報じています。そして、この失敗続きの実験が、被験体の死亡数増加につながっていると従業員は語っている模様。
ただし、ロイターは「政府主導の調査の全容や、従業員がインタビューの中で語った動物実験における疑惑が真実か否かを判断することはできなかった」とも報じています。なお、ロイターはマスク氏およびNeuralinkの幹部にコメントを求めていますが、記事作成時点で返答は得られていません。また、アメリカ農務省検査官事務所の広報担当者はコメントを拒否しています。
ロイターが情報筋から確認した内容によると、Neuralinkは2018年以降に行われた動物実験で、280頭以上の羊を含む、約1500頭の豚やサルなどの動物を殺害したそうです。ただし、情報筋はNeuralinkが動物実験で殺した動物の数に関する正確な記録を保持しているわけではないため、この数字はあくまで大まかな見積に過ぎないそうです。
動物実験での死亡数が、Neuralinkの法律違反を必ずしも示しているわけではありません。実際、アメリカの動物福祉法では企業が研究に使用できる動物の数は定められておらず、いつ、どのように動物を実験に使用するかについては、科学者に大きな自由裁量が与えられています。加えて、Neuralinkはアメリカ農務省の施設検査にすべて合格しているとのこと。また、Neuralinkだけでなく多くの企業が人間の健康管理を向上させるために、日常的に動物実験を行っており、これらの実験が完了した後、動物は研究目的で殺処分されます。
しかし、Neuralink社内からは「開発を加速するように」というマスクCEOからの要請により、Neuralinkでは必要以上に多くの動物が殺害されるようになってしまったという声が挙がっています。また、Neuralinkでは近年人的ミスにより、86頭の豚と2頭のサルが死亡した4つの動物実験が行われたと、ロイターは指摘。Neuralinkの元社員は、「これらの実験でのミスにより、より多くの動物が殺されることになった」と語っており、ミスの原因は上司からのプレッシャーにさらされた実験スタッフによる準備不足にあるという指摘もあります。
また、Neuralinkの動物実験に携わったという5人の情報筋が、ロイターに対して「動物実験で一度に1つの要素をテストし、より多くの動物実験を行うフェーズに移行する前に、関連する結論を引き出すという伝統的なアプローチを提唱したところ、Neuralinkからはテスト内容を修正したり完全な結論を導き出したりする前に、何度も実験を行うというアプローチを取るという返答がありました。この結果、より多くの動物が実験に参加し、殺害されることとなりました」と語っています。
他にも、数年前に経営陣により慎重な実験を行うべきだと訴えたという元従業員が、「上級幹部からスピードを意識するマスクCEOの要求を考えると、そのアプローチは不可能だ」と回答されたとロイターに語ったそうです。なお、このような動物実験に対する懸念から、会社を辞めていった人もいるそうです。
一方で、Neuralinkの競合他社は同社よりも多くの成功を収めています。同じく脳インプラント企業のSynchronは、FDAの承認を受けて2021年から人間での臨床試験をスタートしています。Synchronは動物実験も行ってきましたが、ロイターの調査によると、同社の動物実験で死亡した動物は約80頭の羊のみだそうです。
なお、Neuralinkは2023年前半にも人間の頭に埋め込む最初の臨床試験をスタートする予定であると発表したばかりでした。
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