3年間で80億匹のカニがアラスカの海から消滅、その原因とは?
アメリカのアラスカでカニが以前に比べて90%も激減し、個体数にして10億匹が突然姿を消したため2022~2023年のカニ漁が禁漁に指定されました。専門家が原因究明に向けた調査を進める中、一体何がカニの消失を招いたのかについて科学系ニュースサイトのLive Scienceが考察しています。
What made billions of snow crabs disappear from the Bering Sea? | Live Science
https://www.livescience.com/billions-snow-crabs-vanish-from-bering-sea
アラスカの漁業を管轄するアラスカ州漁業狩猟局(ADF&G)は、2022年10月10日付の勧告書の中で「ズワイガニの個体数が基準値を下回るため、2022~2023年のズワイガニ漁は禁止する」と発表しました。アラスカでズワイガニが禁漁に指定されたのはこれが初めてで、2021年から2年連続で規制されているタラバガニ漁ともに地元産業に甚大な影響が出ており、アラスカの漁師からはカニ資源の保護を求める悲痛な声が上がっています。
推定10億匹のカニが消失しアラスカのカニ漁シーズンがキャンセルに - GIGAZINE
ADF&Gの地域管理生物学者であるミランダ・ウェストファル氏はLive Scienceに対し、「泣きながら眠れぬ夜を過ごした末の決断です。これまでで最も難しい判断でした」と話しました。
The Seattle Timesの2021年9月の報道によると、2018年のベーリング海にはズワイガニの成体約30億匹と稚魚50億匹が生息していたとのこと。しかし、2021年後半の生息数は成体が250万匹、稚魚が650万匹と、わずか3年の間に80億匹近くものカニが消えたことが分かっています。
カニが消えた原因の1つとして考えられるのは、カニの乱獲です。アメリカ海洋漁業局は2022年2月に発表した通知の中で、メキシコ湾のハタや大西洋のサバとともにベーリング海のズワイガニが乱獲されていると警告しました。
また、漁獲量だけでなく漁法にも問題があると指摘されています。ベーリング海ではカニ漁以外の漁業も行われており、カニを目的としていないトロール船は混獲したズワイガニを海に戻すことにしています。しかし、突然に海面に引き上げられて海に投げ戻される衝撃でそのまま死んでしまうカニも多く、ADF&Gが2020年に行った調査では「海に投げ戻されたズワイガニの30%が死んでいる」と推測されています。
一方The Seattle Timesは、2022年4月の記事で「持続不可能な漁業もカニ減少の片棒を担いでいるかもしれませんが、主犯はほぼ間違いなく人為的な気候変動です」と報じました。
伝えられるところによると、ズワイガニの生育には太平洋最北部に位置するベーリング海のさらに北側の海域を流れる冷たい水が必要ですが、これは単に低温の環境を好むという次元ではなくカニの生死を左右する重要な要素だとのこと。
海水は温度が下がると海底へと沈んでいき、海洋生物学者が「コールドプール」と呼ぶ冷水の層を形成します。このコールドプールには他の魚や捕食者がほとんど近寄れないためカニの稚魚にとっての聖域となっており、このコールドプールで育ったカニが他の海域に移動してベーリング海の豊かな生態系を支えています。
しかし、アメリカ海洋大気庁が9月2日に報告した調査結果では、2016年・2018年・2019年に発生した記録的な熱波がベーリング海のコールドプール形成を阻害しており、カニの稚魚が捕食者から保護されなくなっていることが判明しました。またADF&Gのウェストファル氏は、水温が上がって成体のカニの代謝が加速されたことで、カニが飢餓状態に陥った可能性も高いと指摘しています。
人為的な気候変動は年々激化しており、カニの聖域を破壊する熱波もより頻繁に発生していくことが予想されます。アラスカのカニ漁師が組織する業界団体のAlaska Bering Sea Crabbersで事務局長を務めるJamie Goen氏は、ワシントン州のテレビ局・KIMA-TVのインタビューに対して「破産して家族を養えなくなる人、家を売らなければならない人、船を手放す人が出て、その船で長年働いてきた熟練の漁師もみな職を失うことになるでしょう」と話しました。
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