なぜ人間は「○○恐怖症」を持っているのか?
多くの人々は特定の対象について強い恐怖を感じる「恐怖症」を抱えており、よく聞くものには高所恐怖症や先端恐怖症、閉所恐怖症などが挙げられます。一体なぜ人間は恐怖症を抱くのか、恐怖症に進化論的な利点があるのかについて、科学系メディアのLive Scienceが解説しています。
Why do people have phobias? | Live Science
https://www.livescience.com/why-people-have-phobias
何かに対する「恐怖」と「恐怖症」を区別する際には、その恐怖が危険または予測不可能なものに対する合理的な反応なのか、非合理的な反応なのかに注目する必要があります。オーストラリアのマッコーリー大学で心理学教授を務めるRon Rapee氏は、「恐怖症とは、客観的な現実に比例せず人の生活を妨げる、特定の状況や物体に対する恐怖です」「ほとんどの恐怖症は本質的に同じ特徴を示し、恐怖の対象が何なのかにおいてのみ異なります」と述べています。
恐怖症の一般的な特徴には、「対象となるものを避ける」「不安やネガティブな思考を抱く」「心拍数・呼吸の増加」「瞳孔の拡大」といったものが挙げられます。これらは本当に恐ろしいものに出会った時にも現れる可能性がありますが、反応が過剰または不合理である時に「恐怖症」とラベル付けされる場合があるとのこと。
しかし、恐怖症の中には単に不合理なだけではなく、ある程度は合理的な面がないとも言えないものも存在します。たとえば風呂やプールを嫌がる水恐怖症は溺死を避けることにつながり、高所恐怖症も転落を避ける上では有効です。Rapee氏は、「恐怖症はほとんどの場合、現実的で進化論的に合理的な対象および状況に関連して発見されます。たとえば電線やソケットの恐怖症は、たとえそれらが人を殺すことができるとしてもほとんど見られませんが、嵐やヘビ、クモなど、言い換えれば『古代の人々を殺すことができたもの』の恐怖症は一般的です」と説明しています。
恐怖症は進化論的に理にかなっている面もあるとはいえ、単なる恐怖や注意が一部の人々において恐怖症に発展する理由については、まだ不明な点が残っています。Rapee氏は、「一般的な説では、恐怖症は重要な発達段階、通常は人生の早い時期に『学習』されるものだとされています(ほとんどの恐怖症は幼少期に初めて出現します)」「この学習はイヌにかまれるなどの嫌な経験から来る場合もありますが、恐怖症の人の多くは具体的なトラウマ的経験を報告できないので、これはおそらく例外的なものでしょう」と述べています。
ジークムント・フロイトが創始した精神分析学では、多くの行動や恐怖が抑圧された幼少期の経験に結びつけられるとされていますが、この理論には説得力のある証拠がないとする反論もあります。実際、人々は身をもってネガティブな経験をしなくても、誰かに「あれは危ない」と言われたり、映画やアニメで怖いものを見たりしただけで恐怖症になってしまう可能性があるとのこと。
しかし、一部の心理学者はすべての恐怖症が「学習」によるものではなく、先天的に特定の対象を恐怖しているという説を提唱しています。イギリス・サリー大学の心理学者であるChris Askew氏は、「この説の支持者らは、私たちは遺伝的に特定の物事を恐れる傾向があり、否定的な学習経験は必要ないと主張しています」と述べています。
また、「何かを怖がりやすく感情的な人々は恐怖症になる可能性が高い」という説や、「遺伝や家庭環境が恐怖症に影響を及ぼす」という説もあるなど、恐怖症の原因については多くの説明が存在しています。
さまざまな説があることを念頭に置きつつ、「どうすれば恐怖症を克服できるのか?」という疑問についてもLive Scienceは記しています。一般的に、恐怖症を持つ人の多くは対象をできるだけ避けようとするため、結果的に対象への恐怖心が維持されて、恐怖症が長期間にわたり継続することが多いとのこと。
しかしRapee氏は、「恐怖症を克服するには、恐怖に直面する必要があります」「専門用語では一般的に暴露療法と呼ばれています。つまり、恐怖に関連する状況や手がかりに、体系的に繰り返し直面する必要があるのです」と述べ、あえて恐怖の対象に触れることが克服への道だとしています。
暴露療法が適切かつ一貫して行われると、患者は恐怖症の対象について恐れていることが実際には起こらないと理解することができ、恐怖症の解消につながるとのことです。
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