急速なLED照明の普及で「人間と動物に害が及ぶ危険性がある」と研究者が警告
人間は夜間も道路や建物を明るく保つためにさまざまな場所へ照明を設置しており、過剰な光による生態系の混乱や天体観測への悪影響が「光害」として注目を集めています。人工的な光の量については調査が進められる一方で、「人間が増やしている光の種類」の変化についてはそれほど着目されてこなかったとのことで、イギリス・エクセター大学の研究チームが「夜間照明技術の種類の変化」について調べた論文が発表されました。
Environmental risks from artificial nighttime lighting widespread and increasing across Europe | Science Advances
https://doi.org/10.1126/sciadv.abl6891
Conversion to LED lighting brings new kind of light pollution to Europe
https://phys.org/news/2022-09-conversion-kind-pollution-europe.html
Increase in LED lighting ‘risks harming human and animal health’ | Environment | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2022/sep/14/increase-in-led-lighting-risks-harming-human-and-animal-health
近年は人工的な光がもたらす光害についての研究が進んでいますが、調査に用いられる主要な衛星データは光のスペクトルについての情報が少なく、可視光線の中でも波長が短い青色光(380~450nm)にもそれほど敏感ではないとのこと。波長が短いブルーライトの害が注目されつつも、スペクトルの狭いナトリウムランプからブルーライトの多いLED照明への移行が進む中、夜間照明におけるLED照明の使用について調査することは重要です。
そこで研究チームは、衛星センサーにより収集されたデータではなく、「国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗した宇宙飛行士がデジタル一眼レフで撮影した地球の写真」を用いた分析を行いました。デジタル一眼レフによる撮影は体系的に行われたものではありませんが、2003年以降だけで推定125万枚もの夜間写真が撮影されており、すでに一部の局所的な研究には使われているとのこと。
研究チームは、宇宙飛行士が撮影した写真を使用して「ヨーロッパの複合夜間カラーマップ」を作成し、2012~2013年の期間と2014~2020年の期間で光源のスペクトル特性を分析しました。以下の画像は、2014~2020年におけるヨーロッパの夜間カラーマップです。
以下は、2012~2013年のベルギーおよび周辺国を夜間撮影した写真の色を強調した画像です。中央に見えるベルギーは低圧ナトリウムランプの使用を示すオレンジ色の光が強く、周辺国は黄色がかった高圧ナトリウムランプの光が強いことがうかがえます。
以下の画像は、ヨーロッパのさまざまな都市における夜間画像を並べて比較したもの。「AとB(ジブラルタル)」「GとH(ブリュッセル)」のように同じ都市が横に並べられており、左側が古い画像、右側が新しい画像となっています。
都市ごとに見てみると違いがよくわかります。イタリア・ミラノ(Oが2012年でPが2015年)や……
イギリス・バーミンガム(Eが2013年でFが2020年)は新しい画像だと全体的に色合いが白っぽくなっており、急速にLED照明が普及しているのがわかります。研究チームは、イギリス・イタリア・アイルランドなどではLED照明への大きな転換がみられた一方、オーストリア・ドイツ・ベルギーなどでは変化が小さかったと報告しました。
LED照明はエネルギー効率が高く運用コストも低下しますが、研究チームはLED照明の普及に伴う青色光の増加がヨーロッパ全土に「本質的な生物学的影響」をもたらすと指摘。また、過去の研究は青色光による影響を過小評価しているとも主張しています。
これまでの研究では、青色光が人間や動物の睡眠パターンを調節するメラトニンの生産に影響を及ぼし、睡眠を悪化させて慢性的な健康問題を引き起こす可能性が示唆されています。さらに、青色光はコウモリやガといった夜行性の動物の行動を変化させ、生態系にも影響することが指摘されているとのこと。
今回の研究に関与していないニューカッスル大学の保全生態学者であるダレン・エヴァンス氏は、研究結果は「街灯が昆虫の個体数減少に関わっている」と示した自らの研究結果とも合致するとコメント。また、イギリスを拠点とする自然保護団体・Buglifeのデイヴィッド・スミス氏は、「私たちは人間だけでなく、より広い生物学的な観点から照明について考えるべきです」「照明の質を高めて光の強度を下げれば、経済的コストも下がると同時に無脊椎動物にとってより安全な環境になります」と述べました。
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