サイエンス

着色した半透明のソーラーパネルで「太陽光発電をしながら作物を栽培する」農業の効率が向上する可能性


支柱などで太陽光発電を行うソーラーパネルを高い位置に設置し、その下の空間で農業を行う試みは「営農型太陽光発電」と呼ばれており、発電と農業を組み合わせて収益を得ることが可能です。イギリスやイタリアの研究チームが行った実験により、通常のソーラーパネルではなく「着色した半透明のソーラーパネル」を使うことで、営農型太陽光発電における農業の効率が向上する可能性が示されました。

Tinted Semi‐Transparent Solar Panels Allow Concurrent Production of Crops and Electricity on the Same Cropland - Thompson - - Advanced Energy Materials - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/aenm.202001189

Maximize production of electricity and crops—tinted semitransparent solar panels for agrivoltaics | The American Ceramic Society
https://ceramics.org/ceramic-tech-today/environment/tinted-semitransparent-solar-panels-for-agrivoltaics


営農型太陽光発電が提唱されたのは1981年のことですが、近年では太陽光発電の効率が上昇したことや、小規模農家に対する経済的圧力が強まったことを受けて、再び注目が集まっています。営農型太陽光発電ではソーラーパネルをぎっしりと並べるのではなく、適度に隙間を空けて配置することで下部空間にも太陽光を届け、作物の生長に必要な光を確保できるようにします。

太陽光発電と農業を組み合わせることによる利点として挙げられているのは、発電と農業という2つの方法で収益を得ることで経済的に安定するという点だけではありません。農地の上に並べられたソーラーパネルによって作物が極端な風や温度変化から保護される点や、作物へ与えられる水の冷却効果がソーラーパネルの過熱を軽減するといった点も、営農型太陽光発電のメリットに挙げられています。

その一方で、ソーラーパネルによって日光がさえぎられることにより、植物に当たる光の量は確実に減少するため、作物の収穫量が通常の栽培時と比較して減少する点は、営農型太陽光発電のデメリットといえます。ソーラーパネルの下で栽培されたレタスは、通常の条件で栽培された場合と比較して収穫量が15~30%減少することが判明しており、また、日本で行われた実験では、営農型太陽光発電の条件下ではトマトの収穫量が10%減少したそうです。

by National Renewable Energy Lab

そこでイギリスやイタリアの研究者からなる研究チームは、「ソーラーパネルを透過する光の波長」を制御することで、営農型太陽光発電における農業効率を向上させる方法に取り組みました。

植物は太陽の光を使って光合成を行っていますが、太陽光に含まれる全ての光の波長が光合成に使われるわけではありません。植物の主要な光合成色素であるクロロフィルは、主に赤色や青色の波長の光を吸収して光合成を行いますが、緑色の波長の光は吸収せずに反射します。

従来の営農型太陽光発電で使われるソーラーパネルは半透明であり、均一に光を吸収して植物に届く光を減衰させていました。研究チームは、半透明のソーラーパネルを着色して植物に届く光の波長を調整することで、営農型太陽光発電における農業の効率を改善できるかもしれないと考えたとのこと。


実際に研究チームは、青色と緑色の波長を優先的に吸収し、赤色の波長の光は通過させる半透明のソーラーパネルを作成。この特殊なソーラーパネルと透明なガラスのパネルで営農型太陽光発電の環境を作り出し、実際にバジルとホウレンソウを栽培して成長度合いを比較しました。

特殊なソーラーパネルを設置した場合、その下で栽培されているバジルとホウレンソウに届く太陽光は最大で57%減少したことから、収穫量が激減することが予想されました。しかし、実際の収穫量を透明なガラスパネルの下で栽培した場合と比較すると、バジルは約15%、ホウレンソウは約26%しか減少しませんでした。この結果について研究チームは、開発されたソーラーパネルが光合成に使われる赤色の光を通過させたことから、光合成の効率が上昇したことが理由だと説明しています。

通常の栽培と比較すると市場に出回る部位の収穫量は減少したものの、営農型太陽光発電では発電による収入も期待できます。研究チームは、「私たちの実験データでは、営農型太陽光発電は従来の伝統的な農業と比較して、バジルで2.5%、ホウレンソウで35%の経済的利益の増加をもたらす可能性があると示しています」と述べ、特殊なソーラーパネルを用いる営農型太陽光発電が、利益の増大につながるかもしれないと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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