Appleの落とし物トラッカー「AirTag」はストーキングを助長している
Appleが開発した落とし物トラッカー「AirTag」を使うと、AirTagを取り付けた物の位置を簡単に割り出すことができる一方で、簡便さを利用したストーキングの被害も多数報告されています。海外メディアのThe Guardianは実際の被害者や専門家の言葉も交え、AirTag被害の実情についてまとめました。
‘I didn’t want it anywhere near me’: how the Apple AirTag became a gift to stalkers | Apple | The Guardian
https://www.theguardian.com/technology/2022/sep/05/i-didnt-want-it-anywhere-near-me-how-the-apple-airtag-became-a-gift-to-stalkers
The Guardianのインタビューを受けたローラ(仮名)さんは、実際に元パートナーから受けたAirTagによるストーカー被害について告白しています。
ローラさんがある日自分の車の中にいたところ、見知らぬAirTagが検出されたという通知がスマートフォンに表示されたそうです。ローラさんは通知にまったく心当たりがなく、自分の位置やたどってきた経路がスマートフォンに表示されてパニックになり、その後友人宅まで向かい車内を隅々まで調べ、ようやく後部座席のカーペットの下にAirTagを発見したと語りました。
ローラさんは数日前にパートナーと別れたばかりだったのですが、別れる前日、パートナーは幼い息子と一緒に過ごしており、別れ際にチャイルドシートをローラさんの車へ移したそうです。この時にAirTagを仕掛けられたのは明らかで、ローラさんは手がかりを基にパートナーをストーカー行為で訴えました。
ローラさんのようなケースは決して珍しいものではなく、小型かつ安価に位置情報を特定できるAirTagを用いたストーカー被害は世界中で多発しています。アメリカでは2022年6月にAirTagを用いたストーキングが殺人事件にまで発展するなど、その被害は拡大の一途をたどっています。
ストーカー被害者を支援するSuzy Lamplugh Trustや家庭内暴力に関する慈善活動を行うRefugeによると、AirTagによるストーキングのほとんどは被害者のパートナーによるものだそうですが、有名人にAirTagが仕掛けられる例もあるなど、その対象は一つに絞れないそうです。
AirTagを設計したAppleは「ストーカー問題を非常に深刻に受け止めている」とし、登録していないAirTagが自分と一緒に移動している場合に警告するシステムを設計しており、AirTagをより見つけやすくするような技術の開発に取り組んでいるとのこと。しかし、このような「まず製品を売り出し、その後に問題解決を行う」というテクノロジー企業特有の手法は問題があると専門家は指摘します。
サイバー犯罪の被害者を支援するCyber HelplineのRory Innes氏は、上記の手法について「他の産業ではあり得ないことです」と苦言を呈しています。他の産業では厳しい法律や規則、安全基準などが存在しますが、技術分野にはそれが存在しないそうで、Innes氏は「企業の関心は常にサーバーやデータベースの保護にあり、家庭内暴力やストーカーの被害に技術がどう使われるかがまったく理解されていないのです」と語りました。
また、被害を受けたときのサポートも十分でないとInnes氏は指摘します。AirTagの場合、仮に見知らぬAirTagを見つけたとしてもAppleの誰かにサポートを求めることは不可能で、専門家や警察に頼るほかないとのこと。被害者がAirTagを無効化などしようものなら、それを察知した加害者による犯罪がエスカレートする可能性も指摘されています。このような被害が報告されていてもなお、警察は問題を真剣に受け止めていないという事例も確認されているそうです。
なお、The Guardianのインタビューを受けたローラさんは記事作成時点で5年間のストーカー行為保護措置を受けています。ローラさんは「彼は普通の人に見えたのですが、とても信じられないような行動をしでかしました」と語りました。
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